2025.12.02
クリニック奮闘記
vol.1045 レセプト請求・返戻・査定対応の課題と改善策
クリニック経営において、レセプト請求業務は収益の基盤である。医療機関が提供する診療サービスに対して保険診療報酬を適切に請求することは、経営の安定性を維持する上で不可欠なプロセスである。しかし、実務現場ではレセプト請求が属人的に運営されることが多く、特定スタッフの経験や判断に依存している場合、返戻や査定の発生頻度が高まり、経営リスクを増大させる。
レセプト請求における課題は複数ある。第一に、電子カルテとレセプトコンピュータ(レセコン)の情報整合性の不備である。診療記録と請求データが一致しない場合、返戻や査定が発生しやすくなる。第二に、記録方法や請求手順がスタッフ間で統一されていない場合、請求の誤りや算定漏れが増加する。第三に、請求業務の属人化である。特定スタッフが休職や退職した場合、業務が停滞することは珍しくなく、資金繰りや経営判断にも直接的な影響を与える。
こうした課題を解決するためには、業務の組織化と仕組み化が重要である。まず、複数名によるダブルチェック体制の導入が有効である。請求作業を一人に依存せず、複数の担当者が互いに確認することで、算定漏れや記録不一致を未然に防ぐことができる。次に、返戻内容の分析である。返戻や査定の発生理由をカテゴリ別に分類し、頻発する事例に対して再発防止策を策定することで、同様の問題の発生を減少させることが可能となる。また、電子カルテとレセコンの定期的な整合性確認も、システム上のエラーによる返戻を防ぐ上で重要である。
レセプト業務の改善には、単にミスを減らすだけでなく、業務の可視化と標準化を伴うことが求められる。業務プロセスを明文化したマニュアルやチェックリストを整備し、スタッフ全員が共通の手順に従うことで、属人化を排除し安定的な請求体制を構築できる。特に小規模クリニックでは、人数が限られているため、業務フローを明確にすることが事故防止と効率化の両面に効果的である。
さらに、返戻や査定の傾向を定量的に分析することも有効である。例えば、診療科目別、処置別、スタッフ別に返戻率を集計し、問題が多い領域を特定することで、教育やシステム設定の改善に活用できる。これにより、返戻や査定による経営リスクを低減し、請求精度の向上と収益の安定化を同時に実現できる。
また、レセプト業務の改善はスタッフ教育と連動させることが望ましい。新人スタッフや未経験者に対しては、返戻事例や査定理由を具体的に示し、事例学習を行うことで理解度を高めることができる。定期的な勉強会や共有会を通じて、スタッフ間の知識格差を解消することも、属人化を排除する上で重要である。
一方、システム活用の観点からも改善の余地がある。電子カルテやレセコンの自動チェック機能を活用し、請求データの整合性や算定要件の漏れを自動的に確認することで、人為的ミスを減らすことが可能となる。さらに、返戻データや査定結果をシステムで蓄積し、分析可能な形式で管理することは、長期的な業務改善に資する。
総じて、レセプト請求・返戻・査定に関わる課題は、経営の安定性と直結しており、単なる事務作業として軽視できない。属人化の排除、業務プロセスの標準化、返戻分析に基づく改善、システムの有効活用、スタッフ教育の連動、これらを組み合わせることで、レセプト業務の効率化と請求精度の向上を同時に達成できる。
結論として、レセプト業務の改善はクリニック経営の継続的安定に不可欠である。業務の属人化を排除し、標準化・可視化・分析のサイクルを回すことが、スタッフ負担の軽減、返戻や査定リスクの低減、経営判断の正確性向上につながる。改善は一過性の施策ではなく、日常業務として定着させることが、持続可能なクリニック経営の実現に直結する。
