2026.03.20
クリニック奮闘記
Vol.1119 診療効率の低下と業務の非効率化が経営に与える影響 ―日常業務の蓄積が生む構造的問題―
前回は、開業から10年を経過したクリニックにおいて、患者層の変化が診療構造に影響を及ぼすことを指摘した。本稿では、その変化と密接に関連する問題として、診療効率の低下および業務の非効率化が経営に与える影響について検討する。
クリニックの開業初期においては、業務の流れは比較的単純であり、院長自身が診療から受付業務に至るまで全体を把握しやすい状況にある。また、スタッフ数も限られているため、業務の調整はその場で柔軟に行われることが多い。この段階では、多少の非効率が存在していたとしても、組織全体の規模が小さいため、大きな問題として顕在化することは少ない。
しかし、開業から年数が経過し、患者数の増加やスタッフの増員が進むにつれて、業務の複雑性は徐々に高まっていく。にもかかわらず、業務の進め方が開業当初のまま維持されている場合、非効率が蓄積し、結果として診療効率の低下を招くことになる。
ある郊外の内科クリニックでは、開業から10年を経て患者数は安定していたが、一日の診療が終了するまでの時間が徐々に長くなっていた。院長は当初、高齢患者の増加に伴い診療時間が延びていることが原因であると考えていた。しかし実際には、受付から診察、会計に至るまでの各工程において、細かな非効率が積み重なっていた。
例えば、受付業務では患者の来院順の管理がスタッフごとに異なり、診察室への案内のタイミングにばらつきが生じていた。また、会計処理においても、確認作業が重複して行われることがあり、結果として患者の待ち時間が延びる要因となっていた。これらの問題は一つ一つは小さなものであるが、全体として見ると診療の流れを滞らせる要因となっていたのである。
整形外科クリニックにおいても、業務の非効率化が経営に影響を及ぼした事例がある。ある整形外科では、リハビリテーション部門の拡充に伴いスタッフ数が増加していたが、業務の進め方が統一されておらず、担当者ごとに異なる方法で業務が行われていた。その結果、患者の案内や治療の進行にばらつきが生じ、リハビリ室全体の運用効率が低下していた。
このクリニックでは、院長はリハビリ部門の運営を現場に任せていたが、具体的な業務フローの整理は行われていなかった。ある理学療法士は、「同じ業務でも人によって進め方が違うため、他のスタッフのやり方に合わせるのに時間がかかる」と述べている。このような状況では、スタッフの負担が増加するだけでなく、診療全体の効率にも影響が及ぶことになる。
訪問診療クリニックでは、業務の非効率化はより直接的に現れることがある。ある訪問診療クリニックでは、訪問件数の増加に伴い、スケジュール管理が複雑化していた。しかし、その管理方法は開業当初から大きく変わっておらず、主に個々のスタッフの経験に依存していた。その結果、訪問ルートの重複や移動時間の増加といった非効率が生じていた。
さらに、訪問先で得られた情報の共有が十分に行われていないため、同じ内容の確認が複数回行われることもあった。看護師の一人は、「訪問先での対応そのものよりも、その前後の調整に時間がかかることが多い」と語っている。このような状況は、スタッフの疲労を蓄積させるだけでなく、診療の質にも影響を及ぼす可能性がある。
これらの事例から明らかなように、診療効率の低下は単一の要因によって生じるものではなく、日常業務の中で蓄積された非効率が複合的に影響することで発生する。特に開業から年数が経過したクリニックでは、業務の進め方が慣習として定着しているため、問題があっても見直されにくいという特徴がある。
また、非効率な業務はスタッフの負担増加にもつながる。業務に無駄が多い環境では、同じ作業を行うにも余分な時間と労力が必要となり、それが職場に対する不満の一因となることがある。結果として、診療効率の低下は単に経営指標に影響を与えるだけでなく、スタッフの定着にも関係する問題となる。
重要なのは、非効率の多くが日常業務の中に埋もれており、意識的に見直さなければ顕在化しにくいという点である。開業当初には問題とならなかった業務の進め方も、組織の規模や患者層の変化に伴い、見直しが必要となる場合がある。
したがって、開業から10年を経過したクリニックにおいては、診療の流れや業務の進め方を改めて検討することが重要である。それは単なる効率化の問題ではなく、組織全体の運営を再構築する過程の一部と捉えるべきである。
