Vol.1130 「"忙しい時間帯"に利益が出ていない可能性」 ―ピーク時の落とし穴と診療構造の再設計―

レセプト代行サービス メディカルタクト
TEL:06-4977-0265
お問い合わせ
backnumber

クリニック奮闘記

2026.03.30

クリニック奮闘記

Vol.1130 「"忙しい時間帯"に利益が出ていない可能性」 ―ピーク時の落とし穴と診療構造の再設計―

クリニックの日常診療において、「忙しい時間帯ほど利益が出ているはずだ」という認識は広く共有されている。しかし実際には、患者が集中するピーク時間帯において、必ずしも効率的に収益が生み出されているとは限らない。むしろ、過度な混雑が診療の質と効率を低下させ、結果として収益性を損なっているケースも存在する。本稿では、ピーク時の診療構造に潜む問題について、具体的な事例をもとに考察する。

まず前提として、診療の「忙しさ」と「収益性」は必ずしも一致しない。患者数が多い時間帯であっても、一人あたりの診療単価や処理効率が低下していれば、時間あたりの収益は伸びない可能性がある。また、混雑によって診療の質が低下すれば、再診の増加や患者満足度の低下といった形で、長期的な経営にも影響を及ぼす。

ある都市部の内科クリニックでは、午前中の後半に患者が集中し、待合室が常に満席となる状況が続いていた。院長は当初、この時間帯が最も収益を生み出していると考えていたが、実際に診療データを分析すると、必ずしもそうではないことが明らかとなった。

この時間帯では、患者数は多いものの、一人あたりの診察時間が短縮され、結果として十分な説明が行われないケースが増えていた。そのため、症状の再確認や説明不足を補うための再診が増加し、結果として一人の患者に対する総対応時間が増えていた。また、短時間で多くの患者を診ることにより、診療の質が低下し、必要な検査や処置が適切に実施されない場面も見られた。

院長が診療の流れを見直し、ピーク時間帯の患者数を分散させる取り組みを行ったところ、一時的には患者数が減少したものの、診療の質が向上し、再診率が低下した。その結果、時間あたりの収益はむしろ安定する傾向が見られた。この事例は、単純な患者数の多さが必ずしも収益の最大化につながらないことを示している。

整形外科クリニックでは、夕方のピーク時間帯における構造的な問題が確認された。ある整形外科では、仕事帰りの患者が集中する夕方に診療が過密となり、待ち時間の長さが常態化していた。この時間帯では、比較的軽症の患者が多い一方で、診療の回転を優先するあまり、一人あたりの対応が簡略化される傾向があった。

その結果、症状の改善が不十分なまま経過観察となるケースが増え、結果として通院回数が増加していた。また、待ち時間の長さに対する不満が蓄積し、一部の患者が他院へ流れる要因ともなっていた。

このクリニックでは、夕方の診療内容を見直し、軽症患者の対応を効率化する一方で、一定の時間を確保すべき症例については別の時間帯に誘導する運用を導入した。その結果、ピーク時の混雑が緩和され、診療の質と効率のバランスが改善された。この事例は、時間帯ごとの診療内容を意図的に設計することの重要性を示している。

訪問診療クリニックでは、ピークの概念が「時間帯」ではなく「スケジュールの集中」として現れる。ある訪問診療クリニックでは、特定の日に訪問件数が集中し、医師の負担が過大となっていた。この日は一見すると生産性が高いように見えるが、実際には移動や準備に追われ、個々の診療の質が低下していた。

また、訪問件数を優先するあまり、一件あたりの診療時間が短縮され、患者や家族への説明が不十分となるケースも見られた。その結果、後日の問い合わせや追加対応が増加し、全体としての業務効率が低下していた。

このクリニックでは、訪問スケジュールを再編し、一日の訪問件数を適正化するとともに、患者ごとに必要な診療時間を確保する方針に転換した。その結果、一日あたりの件数は減少したものの、診療の質が向上し、追加対応の減少によって全体の効率が改善された。

これらの事例に共通しているのは、「ピーク時=最も効率的」という前提が必ずしも成立していない点である。むしろ、過度な集中は診療の質と効率を同時に低下させるリスクを伴う。そのため、ピーク時間帯の運用については、単に処理能力を高めるのではなく、構造そのものを見直す視点が求められる。

重要なのは、ピーク時の診療を「こなすべき業務」としてではなく、「最適化すべき対象」として捉えることである。患者数の分散、診療内容の整理、時間配分の見直しといった取り組みを通じて、過度な集中を緩和し、全体としての効率を高めることが可能となる。

クリニック経営においては、「忙しさ」が必ずしも成果を意味するわけではない。むしろ、限られた時間の中でどのように診療を構成するかが、経営の安定に直結する。本連載で取り上げてきた各テーマは、いずれも日常診療の中に潜む構造的な課題に関するものであるが、それらを見直すことによって、診療の質と収益性の両立が可能となる。

今後のクリニック経営においては、単に業務量を増やすのではなく、その構造を見直し、効率的かつ持続可能な診療体制を構築することが重要である。本稿がその一助となれば幸いである。