Vol.1142 医療機関の数値目標は何のためにあるのか ― 「測定できる目標」が組織を動かす ―

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クリニック奮闘記

2026.04.22

クリニック奮闘記

Vol.1142 医療機関の数値目標は何のためにあるのか ― 「測定できる目標」が組織を動かす ―

医療機関における事業計画の中核を成すのが数値目標である。しかし現実には、「売上〇円」「患者数〇人」といった目標が掲げられているものの、それが現場の行動と結びついていないケースが少なくない。

このような数値目標は、単なる"結果の確認指標"にとどまり、組織を動かす力を持たない。

本来、数値目標とは「結果を測定するための指標」であると同時に、「行動を方向付けるためのツール」でなければならない。すなわち、数値目標は過去を評価するためだけでなく、未来の行動を規定する役割を持つ。

数値目標が機能しない理由

多くのクリニックで数値目標が機能しない理由は、その設定方法にある。典型的なのは、院長や経営層がトップダウンで数値を設定し、それをスタッフに提示するだけというケースである。

この場合、スタッフにとって数値は「与えられたもの」であり、自分の行動との関連性が見えない。その結果、目標は"他人事"となり、日常業務に影響を与えない。

また、医療機関特有の事情として、「患者サービスを優先すべき」という価値観がある。この価値観自体は当然であるが、それが数値目標との対立構造として捉えられると、「数字を追うことは良くないこと」という無意識の認識が生まれてしまう。

ここに、医療機関特有のジレンマが存在する。

患者サービスと数値目標は対立するのか

結論から言えば、患者サービスと数値目標は本来対立するものではない。むしろ適切に設計された数値目標は、患者サービスの質を高める方向に作用する。

問題は、「何を測るか」である。

例えば、単純に患者数だけを目標にすると、短時間診療や説明不足が誘発される可能性がある。一方で、「再診率」や「治療継続率」を指標にすれば、丁寧な診療やフォローアップが促進される。

つまり、数値目標の設計次第で、現場の行動は大きく変わる。

事例①:整形外科クリニックにおけるKPI再設計

ある整形外科クリニックでは、慢性的な患者数の伸び悩みが課題となっていた。従来は「1日来院患者数」の増加を目標としていたが、思うような成果が出ていなかった。

分析の結果、新患数は一定数確保できているものの、リハビリへの移行率と継続率が低いことが判明した。

そこで、このクリニックではKPIを以下のように見直した。

・新患数ではなく「リハビリ移行率」を重視
・「リハビリ継続回数」を指標化
・患者説明の実施率を可視化

この変更により、医師は初診時の説明に時間をかけるようになり、リハビリスタッフも患者との関係構築を意識するようになった。その結果、患者数は大きく増えなかったものの、延べ患者数と単価が向上し、経営は安定した。

ここで重要なのは、「測る指標を変えただけで、行動が変わった」という点である。

クリニック全体目標と個人目標の一致

数値目標を機能させるためには、クリニック全体の目標と各スタッフの行動目標が一致している必要がある。

例えば、「再診率向上」がクリニックの目標である場合、医師だけでなく、受付や看護師の行動もそれに紐づいていなければならない。

受付での次回予約の取り方、看護師によるフォローの質、説明資料の整備など、あらゆる接点が再診率に影響する。

このように、全体目標を各職種の具体的行動に分解することが不可欠である。

事例②:耳鼻咽喉科クリニックにおける目標連動

ある耳鼻咽喉科クリニックでは、「小児患者の再来率向上」を目標に掲げていた。しかし当初は医師の診療内容にばかり焦点が当てられ、思うような改善が見られなかった。

そこで、目標をスタッフ全体の行動に落とし込む取り組みを行った。

受付では、保護者への説明資料を見直し、次回来院の必要性を明確に伝えるようにした。看護師は、処置後のケア方法を丁寧に説明し、不安の軽減に努めた。

この結果、再来率は徐々に向上し、特に小児患者の定着率が改善した。ここでも、数値目標そのものよりも、「目標が行動にどう結びつくか」が成果を左右している。

数値目標とモチベーションの関係

数値目標は、スタッフのモチベーションにも大きく影響する。達成可能性が低すぎる目標は無力感を生み、逆に容易すぎる目標は緊張感を失わせる。

また、医療機関では「患者のために働く」という動機が強いため、純粋な数値目標だけでは動機付けとして不十分である。

重要なのは、数値目標が「患者利益と結びついている」と実感できることである。

例えば、「説明実施率を上げることが患者満足につながる」と理解できれば、その目標は単なる数字ではなく、意味を持った行動指針となる。

測定できることが、改善できる

マネジメントの基本原則として、「測定できないものは改善できない」という考え方がある。医療機関においても例外ではない。

ただし、測定対象の選定を誤ると、意図しない行動を誘発するリスクがある。そのため、数値目標の設計には慎重さが求められる。

単なる売上や患者数ではなく、「患者にとって価値のある行動」をいかに数値化するか。この視点が、医療機関の事業計画において極めて重要である。