2026.04.22
クリニック奮闘記
Vol.1144 結果ではなくプロセスで評価する組織づくり ― 行動目標が医療の質と経営を両立させる ―
医療機関の事業計画において、数値目標の設定が重要であることは既に述べた通りである。しかし、実際のマネジメントにおいてより重要なのは、「何をもって評価するか」という視点である。
多くのクリニックでは、最終的な結果、すなわち売上や患者数、再診率といったアウトカムを中心に評価が行われている。しかし、これらの結果は様々な要因の影響を受けるため、個々のスタッフの努力や工夫が必ずしも正しく反映されるとは限らない。
そのため、結果だけに基づく評価は、時として現場の納得感を損ない、モチベーションの低下を招く。
そこで重要となるのが、「プロセス評価」の導入である。
なぜプロセス評価が必要なのか
プロセス評価とは、結果に至るまでの行動や取り組みを評価する考え方である。医療機関においては、特にこの視点が重要となる。
なぜなら、医療は本質的に不確実性を伴うものであり、必ずしも努力が結果に直結するとは限らないからである。例えば、丁寧な説明や適切なフォローを行ったとしても、患者の事情により通院が継続されないケースは少なくない。
このような状況で結果のみを評価すると、「やっても意味がない」という意識が生まれかねない。
一方で、プロセスを評価することで、「何をすべきか」が明確になり、行動の質が安定する。
行動目標の設定がもたらすもの
プロセス評価を機能させるためには、具体的な行動目標の設定が不可欠である。行動目標とは、「何をどのように行うか」を明確にしたものであり、日々の業務に直結する。
例えば、「患者満足度を向上させる」という抽象的な目標ではなく、「初診患者に対して〇分以上の説明時間を確保する」「再診時に前回の治療内容を必ず確認する」といった具体的な行動に落とし込む必要がある。
これにより、スタッフは自分の役割を具体的に理解し、日常業務の中で実践することが可能となる。
事例①:耳鼻咽喉科クリニックにおける行動目標の導入
ある耳鼻咽喉科クリニックでは、患者満足度の向上を目指していたが、従来の評価は主に患者数や待ち時間といった結果指標に依存していた。
そこで、行動目標の導入を行った。
具体的には、看護師には「処置前後の説明を必ず実施すること」、受付スタッフには「次回受診の必要性を必ず伝えること」といった目標を設定した。
これらの行動は一見すると小さな変化であるが、継続することで患者の理解と安心感が高まり、結果として再来率や口コミ評価の向上につながった。
ここで重要なのは、結果を直接追うのではなく、「結果を生み出す行動」に焦点を当てた点である。
プロセス重視がもたらす組織の変化
プロセス評価を導入すると、組織にはいくつかの変化が生まれる。
第一に、評価の透明性が高まる。結果だけでなく、日々の取り組みが評価対象となるため、スタッフは何をすればよいかを理解しやすくなる。
第二に、改善の余地が明確になる。結果が出ていない場合でも、どのプロセスに課題があるのかを特定しやすくなる。
第三に、挑戦を促進する文化が生まれる。結果のみの評価ではリスク回避的な行動が増えるが、プロセスが評価されることで新しい取り組みに対する心理的ハードルが下がる。
事例②:皮膚科クリニックにおける評価制度の見直し
ある皮膚科クリニックでは、自由診療の拡大を目指していたが、スタッフの間では「売上目標を押し付けられている」という不満があった。
このクリニックでは評価制度を見直し、売上ではなく「説明実施率」や「患者ニーズの把握」に関する行動を評価対象とした。
例えば、カウンセリング時に患者の希望や不安をどれだけ引き出せたか、適切な情報提供ができたかといった点が重視された。
その結果、スタッフは無理に施術を勧めるのではなく、患者にとって最適な選択を支援する姿勢を取るようになった。結果として、患者満足度とリピート率が向上し、売上も自然に伸びていった。
ここでも、プロセス重視が結果につながる好例が見られる。
プロセス評価の限界と注意点
もっとも、プロセス評価にも限界はある。行動が評価されるあまり、「形式的な実施」に陥るリスクがあるからである。
例えば、説明を行うこと自体が目的化し、その質が伴わない場合、本来の意図は達成されない。
そのため、プロセス評価においては「量」だけでなく「質」をどう担保するかが課題となる。この点において、定期的な振り返りやフィードバックの仕組みが重要となる。
院長の役割は「評価軸の設計者」
最終的に、どのような行動を評価するかは院長の意思決定に委ねられる。すなわち、院長は「評価軸の設計者」としての役割を担う。
どの行動を重視するかによって、組織の文化や方向性は大きく変わる。患者サービスを重視するのであれば、それに直結する行動を評価する必要がある。
そして、その評価が一貫して運用されることで、組織全体の行動が徐々に変化していく。
