Vol.1200 患者の納得を得る医療へ ― 負担増時代の患者サービスと信頼構築

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クリニック奮闘記

2026.07.04

クリニック奮闘記

Vol.1200 患者の納得を得る医療へ ― 負担増時代の患者サービスと信頼構築

令和8年度診療報酬改定は、医療機関にとってのプラス改定であると同時に、患者にとっては負担増を伴う改定でもある。制度の持続可能性を確保するため、患者の自己負担が増加する項目が含まれているのである。本稿では、この負担増の時代において、クリニックがいかにして患者の納得と信頼を得ていくかを、顧客サービス、すなわち患者サービスの視点から論じたい。

まず、今回の改定が患者負担に与える影響を正確に把握しておこう。基本診療料の引き上げや各種加算の新設により、同じ「初診」「再診」であっても、窓口負担には小幅な変動が生じうる。ただし、その具体的な金額は医療機関ごとに異なる。医療機関が届け出ている加算や施設基準が異なるため、「6月から全国一律でいくら増える」という単純な話にはならない。再診中心の患者であれば、1回あたり数十円程度の幅というのが実情である。加えて、入院時の食事療養費の基準額が1食あたり690円から730円へと引き上げられるなど、患者が実感する負担増もある。さらに視野を広げれば、2027年3月からはOTC類似薬、すなわち市販薬に近い成分の医療用医薬品について、保険給付を見直す方向での議論が進んでいる。湿布や一部の解熱鎮痛薬、保湿剤、抗ヒスタミン薬などが対象案として挙がっており、価格の一部を患者の追加負担とする案が検討されている。

こうした負担増の局面において、患者サービスの観点から決定的に重要となるのが、窓口における丁寧な説明である。患者が「先月より支払いが増えた」と感じたとき、その理由が分からなければ、不信感が生じる。「あちらのクリニックではこの金額だったのに、ここではなぜ違うのか」という疑問は、施設基準や届出区分の違いを説明されなければ解消されない。同じ初診・再診であっても、医療機関が届け出ている加算や施設基準、受診の時間帯、マイナ保険証の利用の有無などによって窓口負担は変わりうる。この違いは、医療機関がそれぞれ異なる体制を整えていることの反映であり、決して恣意的なものではない。ここで求められるのは、負担増の事実を隠すことでも、制度のせいにして突き放すことでもなく、なぜその負担が生じるのかを患者が理解できる言葉で伝える姿勢である。負担の増加を、医療の質の向上や、スタッフの処遇改善を通じた医療提供体制の維持につながるものとして説明できたとき、患者の納得は信頼へと転化する。

この説明を担うのは、多くの場合、医師ではなく受付や会計を担当する事務スタッフである。したがって、窓口での説明の質は、事務スタッフが制度をどれだけ理解しているかに直接左右される。改定によって何がどう変わり、なぜ負担が変動するのかを、スタッフ自身が正確に理解していなければ、患者に納得のいく説明はできない。ここに、患者サービスと人材育成の接点がある。改定のたびに、その内容と患者への影響をスタッフ全員で共有し、想定される質問への回答を準備しておくこと。こうした地道な備えが、窓口でのトラブルを未然に防ぎ、患者の信頼を守る。制度の変更を患者との信頼関係の毀損につなげないためには、その最前線に立つスタッフへの情報共有と教育が不可欠なのである。

生活習慣病管理料をめぐる改定は、患者サービスの観点からも重要な示唆を含んでいる。今回の改定では、療養計画書への患者署名が不要となった。これは、長らく現場の負担となっていた署名依頼と回収の手間を軽減する、実務上の大きな改善である。しかし、ここで注意すべきは、署名が不要になったことと、説明が不要になったことは全く別であるという点である。療養計画書の作成・交付・説明と、患者からの同意取得は、引き続き算定要件として維持されている。むしろ、署名という形式的な手続きが省かれた分だけ、口頭での対話を通じた治療方針の共有が、従来以上に重要になったと理解すべきである。

この点を、患者サービスの本質と結びつけて考えてみたい。生活習慣病の管理において、療養計画書は単なる算定のための書類ではなく、患者と共に治療の目標を設定し、その達成状況を評価していく継続的なプロセスそのものである。初回の計画では、患者が検査結果を理解し、自らの生活上の問題点を把握し、目標を設定する。2回目以降は、重点目標の達成状況を評価し、必要に応じて目標を再設定していく。このプロセスを丁寧に運用することは、算定要件を満たすためであると同時に、患者が自らの疾患と向き合い、治療を継続する動機づけを与えることでもある。糖尿病や高血圧のような慢性疾患において、治療の中断は重症化のリスクを高める。患者が治療を継続したいと思える関係を築くことこそ、最良の患者サービスなのである。

実際、今回の改定で生活習慣病管理料の見直しが議論された背景には、治療を途中で中断してしまう患者が相当数存在するという課題認識があった。中医協の調査では、生活習慣病の管理において6か月の検査が実施されていない患者が一定数いることや、医療機関ごとに管理の実態にばらつきがあることが指摘されている。管理料(Ⅰ)における血液検査の6か月に1回以上の要件化は、こうした実態への対応である。ここで重要なのは、この要件を単なる算定上の義務として捉えるのではなく、患者の健康管理の質を担保する仕組みとして活用する視点である。定期的な検査を確実に実施し、その結果を患者に丁寧に説明して療養計画に反映させる。この一連のプロセスを、患者にとって「自分の健康が継続的に見守られている」という安心感へと転化できたとき、算定要件への対応と患者サービスの向上は完全に一致する。制度が求める形式を、患者のための実質へと昇華させることが、質の高い医療機関の証となる。

診療科ごとに、患者サービスの具体的なあり方は異なる。小児科では、保護者の不安に寄り添う説明と、感染症流行期における待合の工夫が、患者満足度を大きく左右する。発熱した子どもを連れた保護者にとって、他の患者への感染を気にせずに済む動線や、予約による待ち時間の短縮は、それ自体が大きな安心となる。耳鼻科で日帰り手術を行うクリニックであれば、手術前後の丁寧な説明と、術後のフォロー体制が、患者の安心感に直結する。手術という非日常的な体験に臨む患者の不安を、十分な説明によって和らげることが、信頼の礎となる。整形外科では、リハビリテーションの進捗を患者と共有し、回復への見通しを示すことが、治療への主体的な参加を促す。皮膚科の形成外科領域であれば、治療方針と経過について患者の理解を得ることが、トラブルの予防につながる。消化器内科であれば、内視鏡検査に対する患者の心理的な抵抗を、検査の意義と安全性の説明によって軽減することが、早期発見の機会を広げる。いずれの科においても共通するのは、患者を「処置の対象」としてではなく、「共に治療に取り組むパートナー」として遇する姿勢である。

患者サービスは、スタッフの接遇によって具現化される。どれほど優れた診療方針を掲げても、それが日々の患者対応に反映されなければ意味をなさない。すべてのスタッフがクリニックの理念を理解し、それに沿った接遇を実践していくことが、患者から見たクリニックの一貫性を保つ。ここで、患者サービスと人材マネジメントが再び交差する。スタッフが自らの仕事に誇りを持ち、患者に丁寧に向き合える環境を整えること――それは、賃上げによる処遇改善だけでなく、業務の意味を理解し、患者の役に立っているという実感を持てる職場づくりによって実現される。処遇改善と患者サービスは、スタッフの働きがいという一点でつながっているのである。

最後に、患者サービスと経営の関係について述べておきたい。集患において、新規患者の獲得はもちろん重要であるが、それ以上に重要なのがリピート率、すなわち患者に再び受診したいと思ってもらえるかどうかである。新規患者を1人獲得するコストは、既存患者に継続して受診してもらうコストよりもはるかに高い。丁寧な説明と誠実な対応によって患者の信頼を積み重ねることは、地域における評判を高め、口コミによる新規患者の来院にもつながっていく。負担増という逆風の時代だからこそ、患者一人ひとりの納得と信頼を大切にする姿勢が、クリニックの持続的な経営を支える最も確かな基盤となる。制度は変わり、負担は増える。しかし、患者との信頼関係という資産だけは、どのような制度改定によっても目減りすることのない、クリニックにとってかけがえのない財産なのである。