Vol.722 クリニックにおける業務の標準化を考える

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クリニック奮闘記

2024.07.24

クリニック奮闘記

Vol.722 クリニックにおける業務の標準化を考える

クリニックのスタッフは中途採用が一般的です。これまで勤務してきた数々の医療機関で、各人が独自の仕事スタイルを持っています。学ぶべきところもありますが、気を付けなければならないのは、"自分流"の仕事になっていないかと見極めることです。その人しかできない仕事や非効率なやり方を変えることのできない人には、指導の上で業務スタイルを変えてもらう必要があります。本稿では、そんなクリニックの業務の標準化についてお話ししたいと思います。

院長の鈴木先生は、新しい挑戦を求めて地方でクリニックを開業して10年が経ちました。そこは、地域住民にとって大切な医療拠点でありながら、運営において多くの課題も抱えていました。特に業務の進め方が統一されておらず、スタッフごとに異なる手法で仕事をしていたため、業務効率が低く、患者の待ち時間が長くなることがしばしばありました。

ある日、鈴木院長が診療の合間に受付をのぞいてみると、患者が長時間待たされているのを目の当たりにしました。受付スタッフは忙しそうに電話応対をしながらカルテを探しており、看護師たちはそれぞれのやり方で患者の対応や薬の在庫の確認に時間を取られていました。院長は、この混乱した状況がクリニック全体の問題であることを直感的に感じ取りました。

その日の夕方、院長は看護師長と受付の事務主任に相談を持ちかけました。「今日の状況を見て、このクリニックには業務の標準化が必要だと思いました。各スタッフが異なる方法で仕事をしているため、無駄が多く、患者さんたちにも負担をかけています。改善策を皆さんで考えていきたいと思いますので、ご協力お願いします」と話しました。院長のこの発案により、院内で全ての業務の見直しを進めることになりました。

まず、院長は看護部門と事務部門の業務内容を詳細に調査することにしました。それぞれの部門のスタッフに業務の進め方をヒアリングしました。院長は、各部署が抱える問題点と、効率的に業務を進めるための提案を集めることに集中しました。スタッフたちも、自分たちの声が反映されることを期待し、積極的に協力してくれました。

調査の結果、以下のような問題点が浮かび上がりました。

  1. 受付では、患者の検査データの管理方法がスタッフごとに異なり、必要なデータを見つけるのに時間がかかる。
  2. 看護師は、患者の導線が整理されておらず、どの部屋に案内するかが一貫していない。
  3. 特定の患者では、極端に診察時間が長くなることがある。
  4. 院内処置薬や診療材料等の在庫管理が手作業で行われており、在庫切れや過剰在庫が頻発している。

院長は、調査結果を基に業務の標準化を図るための具体的な提案をまとめました。彼は以下のような改革案を示しました。

  1. 受付業務の標準化:
    • 電子カルテシステムと検査データを一元管理し、独自で作成している紙の管理表をなくす。
  2. 看護業務の標準化:
    • 患者の導線を明確化し、案内する部屋や手順を統一する。
    • 各部屋に必要な備品をあらかじめ準備し、看護師がスムーズに業務を行えるようにする。
  3. 診察業務の標準化:
    • 診察の流れを標準化し、共通の診察プロトコルを作成する。
    • 診察時間の長くなる患者については、時間予約を導入し、予約に合わせて人員配置を行う。
  4. 院内の診療材料の在庫管理と薬剤情報説明の標準化:
    • アナログではあるが、「看板方式」により在庫管理を行う。
    • 患者に対する説明も標準化する。

院長は提案をもとに、事務主任と看護師長と協力して具体的な手順書を作成しました。手順書には、業務の進め方、使用するツール、注意点などが詳細に記載されていました。次に、全スタッフを対象にしたトレーニングをOJTにより実施し、新しい業務手順を実際に実践する機会を設けました。

運用初日、院長はスタッフに対して、「この業務標準化は、皆さんがより効率的に仕事を進め、患者さんにより良いサービスを提供するためのものです。皆さんの協力が不可欠ですので、一緒に頑張りましょう」と話しました。スタッフたちもその意義を理解し、積極的に新しい手順を学び始めました。

業務標準化の取り組みが始まってから数週間後、クリニック全体に目に見える変化が現れ始めました。受付では、電子カルテシステムの効率的な運用によりカルテの検索時間や検査データの検索時間が大幅に短縮され、患者の待ち時間も減少しました。看護師たちは統一された導線に従ってスムーズに患者を案内し、診察の流れも改善されました。院内の処置薬の在庫管理は、その運用効果が目に見える形で現れ、在庫切れや過剰在庫の問題が解消されました。

患者からも「待ち時間が短くなった」「対応が迅速で親切になった」といった好意的なフィードバックが寄せられるようになり、スタッフたちも、効率的な業務進行によりストレスが軽減され、仕事に対する満足度が向上しました。

院長は、業務標準化の成果をスタッフ全員と共有するための振り返り会を開催しました。そこで、各部門の改善点と今後の課題を話し合い、さらなる業務改善のためのアイデアを募りました。スタッフたちからは、より具体的な改善提案や新たなチャレンジへの意欲が示され、クリニック全体が一体となって取り組む姿勢も見えるようになりました。