2025.04.07
クリニック奮闘記
Vol.876 選ばれるクリニック戦略
前回は価格戦略についてお話をしました。
安く売ることでブランドイメージを棄損してはいけないという趣旨でした。
前回の趣旨を踏まえて、選ばれるためのクリニックのブランド戦略について考えてみたいと思います。
結論から言うと、当たり前のことを当たり前の様にすることが、遠回りのようで一番の近道だということです。
診療行為(医療サービス)そのものは、ガイドラインに沿った形でのサービス提供になっているため、技術レベルでの差別化は難しいと思われます。差別化の要素は医療技術以外のホスピタリティにあります。
なんだ、そんなことか!と思われるかもしれませんが、実はこの要素が非常に大きいのです。
患者がクリニックの中に滞在している時間のうちで、院長先生とお話をしている時間はどれくらいあるでしょうか。
患者がクリニックに来院してから帰るまでの時間は、受付5分、待ち時間20分、診察15分、検査15分、会計待ち10分 合計65分です。
院長先生が患者と接している時間は15分(23%)です。スタッフが対応している時間は20分で、半分の時間を待ち時間として30分過ごしています。
院長が全ての工程を見ているのであれば、サービスの質のバラツキは小さくなりますが、間にスタッフが介在している以上、バラツキは生じてしまいます。
ここにクリニックのサービスレベルの差が表れてきます。(逆の場合もあるでしょうが、ここでは問題にしません)
受付、検査、待ち時間の中で改善すべきポイントを抽出してみましょう。
小さなことの改善の積み重ねが他院との差別化につながります。
以下に本稿の内容をまとめておきます。
1. ブランドの定義 (土台作り)
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ミッション・ビジョン・バリューの明確化:
- ミッション (使命): そのクリニックが社会に対してどのような役割を果たしたいのか、どのような貢献をしたいのかという存在意義。
- ビジョン (将来像): 将来的にどのようなクリニックを目指したいのかという目標や理想像。
- バリュー (価値観): 患者さんや地域社会に対してどのような価値を提供したいのか、どのような考え方や行動を大切にするのかという行動指針。
- これらを明確にすることで、クリニックの核となる部分が定まり、スタッフ全体の共通認識を醸成し、一貫したメッセージを発信することができます。
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ターゲット患者層の明確化:
- どのような患者さんに来てほしいのか、年齢層、性別、ライフスタイル、抱える悩みやニーズなどを具体的に設定します。
- ターゲット層を明確にすることで、提供する医療サービス、コミュニケーション方法、情報発信の場などを適切に選択することができます。
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競合分析:
- 周辺のクリニックや同様の診療科のクリニックがどのようなブランドイメージを打ち出しているのか、どのような強み・弱みを持っているのかを分析します。
- 競合との差別化ポイントを見つけるために重要です。
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ポジショニングの決定:
- 競合との比較を踏まえ、ターゲット患者層に対してどのような独自の価値を提供できるのかを明確にします。「〇〇ならこのクリニック」という独自の立ち位置を確立します。
- 例:「地域のかかりつけ医として、丁寧な説明と安心できる医療を提供」「専門性の高い〇〇治療に特化」「女性特有の悩みに寄り添うクリニック」など。
2. ブランドの構築 (具体的な表現)
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クリニック名の検討:
- 覚えやすく、親しみやすく、クリニックの特色や提供する価値が伝わるような名称を検討します。
- ターゲット層に響くネーミングも重要です。
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ロゴ・シンボルマークのデザイン:
- クリニックの理念や特徴を視覚的に表現する、印象的で覚えやすいデザインを作成します。
- カラーパレットもブランドイメージを左右する重要な要素です。
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ウェブサイト・SNS:
- クリニックの顔となるウェブサイトは、清潔感があり、情報が整理され、使いやすいデザインを心がけます。
- 診療内容、医師・スタッフの紹介、アクセス情報、予約方法などを分かりやすく掲載します。
- SNSを活用して、クリニックの日常や医療に関する情報発信、患者さんとのコミュニケーションを図ります。
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院内環境の整備:
- 清潔感、快適性はもちろんのこと、クリニックのコンセプトやターゲット層に合わせた内装、BGM、香りなどを演出します。
- 患者さんがリラックスして過ごせる空間作りが重要です。
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スタッフの教育:
- クリニックの理念や価値観をスタッフ全員が理解し、共有することが重要です。
- 患者さんへの丁寧な対応、言葉遣い、身だしなみなど、ブランドイメージを体現できるような教育を行います。
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コミュニケーション戦略:
- ウェブサイト、SNS、ブログ、パンフレット、ニュースレターなど、様々なツールを活用して、ターゲット患者層に合わせた情報発信を行います。
- 地域住民向けのイベントやセミナーなどを開催することも有効です。
3. ブランドの浸透・維持 (継続的な活動)
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一貫性のある情報発信:
- ウェブサイト、SNS、院内掲示物など、あらゆる接点において、ブランドイメージと一貫性のあるメッセージを発信します。
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患者体験の向上:
- 受付から診察、会計、アフターフォローまで、患者さんがクリニックで体験するすべての過程において、質の高いサービスを提供します。
- 患者さんの声に耳を傾け、改善に繋げる姿勢が重要です。
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地域との連携:
- 地域の医療機関や団体との連携を強化し、地域社会への貢献を通じて信頼関係を構築します。
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効果測定と改善:
- ブランド戦略の実施状況や効果を定期的に測定し、必要に応じて改善を行います。
- 患者満足度調査やアンケートなどを活用することも有効です。
クリニックのブランド戦略を成功させるためのポイント
- 独自性を明確にする: 他のクリニックにはない、独自の強みや特徴を見つけ、それを前面に打ち出します。
- 患者視点を重視する: 患者さんが何を求めているのか、どのような情報に関心があるのかを常に考え、行動します。
- 継続的な努力: ブランドイメージの構築・維持には時間がかかります。諦めずに継続的な取り組みが重要です。
- スタッフの巻き込み: スタッフ全員がブランド戦略を理解し、共に行動することが不可欠です。
クリニックのブランド戦略は、患者さんの信頼を獲得し、長期的な成功に繋がるための重要な投資です。上記の要素を参考に、ぜひ自院ならではのブランド戦略を検討してみてください。