Vol.897 2025年問題と地域医療への対応

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クリニック奮闘記

2025.04.27

クリニック奮闘記

Vol.897 2025年問題と地域医療への対応

2025年問題と地域医療への対応

はじめに

日本は今、かつてないスピードで超高齢社会へと突き進んでいる。なかでも「2025年問題」は、団塊の世代(1947〜1949年生まれ)がすべて75歳以上の後期高齢者となり、医療・介護・福祉の需要が爆発的に増加することを指す。国全体の医療・介護制度への負担はもちろん、特に地域医療現場においては深刻な影響が懸念されている。本稿では、2025年問題の概要と、それに伴う地域医療への影響、そして地域医療を持続可能なものとするための対応策について考察する。

2025年問題の概要

2025年には、後期高齢者人口が約2200万人に達すると予測されている。これは全人口の約5人に1人が75歳以上になることを意味し、以下の問題が顕在化するとされる。

  • 医療・介護サービスの需要急増

  • 医療費・介護費の財政負担拡大

  • 医療人材・介護人材の不足

  • 独居高齢者・老老介護の増加

  • 多疾患併存(複数の病気を同時に抱える患者)の増加

これに対して、医療供給体制が従来通りの病院中心型で対応できるかというと、答えは否である。特に慢性疾患の管理、在宅医療・介護の充実が求められる中、地域ごとに適切な医療体制の再編が急務となっている。

総人口(万人)高齢化率(65歳以上)後期高齢者(75歳以上)人口(万人)
2020年 12,600 28.7% 1,800
2025年 12,000 30.3% 2,200
2040年 11,100 35.3% 2,600

地域医療への影響

1. 病院完結型から地域完結型医療へ

これまでは、患者は具合が悪くなると病院に行き、必要に応じて入院し、治療を受けるという「病院完結型」の医療が中心だった。しかし、高齢患者は「治癒」を目指すだけでなく、「生活の質(QOL)の維持」を重視するケースが多い。慢性的な病気や認知症など、完治しない病態に対しては、病院だけでなく、診療所、訪問診療、訪問看護、リハビリ、福祉サービスが連携して「地域完結型」で支える必要がある。

2. 医療資源の偏在と人材不足

人口減少と高齢化が著しい地方では、医師や看護師、介護職の確保が難しくなっている。特に医師は都市部偏在が進み、地方では医療提供体制そのものが成り立たない地域も出てきた。2025年以降、この傾向はさらに深刻化する見通しだ。

3. 多職種連携の重要性

高齢者は、複数の疾患を持つ「多疾患併存」が一般的であり、医師だけでは対応が難しいケースが増える。そのため、看護師、薬剤師、リハビリ職、ケアマネジャー、介護福祉士など多様な専門職が連携して支援する「多職種連携」が必須となる。

地域医療への対応策

1. 地域医療構想の推進

国は「地域医療構想」に基づき、各都道府県が2025年を目標に、必要な病床機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)をバランスよく配置する計画を策定している。急性期病院の統合・再編や、回復期リハビリ病床・慢性期病床の充実が進められているが、地域によって進捗に差がある。単なるベッド数の削減ではなく、地域の実情に応じた柔軟な体制づくりが求められる。

病床機能主な役割必要な地域整備
高度急性期 重症患者治療 大都市圏中心、集約化
急性期 手術・救急医療 地域中核病院
回復期 リハビリ中心 地域密着型病院
慢性期 長期療養 地域ケア病棟

2. 在宅医療・在宅介護の強化

高齢者が住み慣れた地域で自立した生活を続けられるよう、在宅医療・在宅介護の充実が不可欠である。訪問診療、訪問看護、訪問リハビリ、訪問介護などのサービスの質と量を確保し、24時間対応の体制を整備することが求められる。また、看取り(自宅での終末期ケア)にも対応できる仕組みが必要だ。

3. 医療と介護の連携強化

医療と介護の連携がスムーズでないと、患者の生活支援に支障をきたす。たとえば、退院後の在宅生活へのスムーズな移行には、病院とケアマネジャー、訪問看護ステーションなどとの緊密な連携が不可欠だ。地域包括ケアシステムの構築を目指し、医療・介護・福祉が一体となったネットワークづくりが進められている。

4. ICT(情報通信技術)の活用

地域医療を支えるためには、ICTの活用が有効である。オンライン診療、電子カルテの共有、地域医療ネットワークシステムなどによって、診療情報を関係機関で共有し、スムーズな医療連携を図ることができる。特に、遠隔地に住む高齢者や、通院困難な患者への支援に効果が期待されている。

5. 人材育成と働き方改革

医療・介護人材の確保と育成は喫緊の課題である。医師・看護師の働き方改革を推進し、負担の軽減と定着を図るとともに、医療職に限らず、介護職や地域ボランティアなども含めた地域全体で支える体制づくりが必要だ。さらに、タスクシフティング(業務移管)を進めることで、限られた人材を有効活用する工夫も求められている。

まとめ

2025年問題は、単なる高齢化にとどまらず、日本社会全体のあり方を問う大きな課題である。特に地域医療においては、これまでの延長線上では対応できず、病院・診療所・在宅・介護施設が一体となり、地域ぐるみで高齢者を支える仕組みを本格的に作り上げていく必要がある。そのためには、国・自治体・医療機関だけでなく、地域住民一人ひとりの理解と協力も欠かせない。

2025年はすでに目前に迫っている。今後の地域医療を持続可能なものとするために、私たち一人ひとりが「自分ごと」としてこの問題に向き合い、行動していくことが求められている。