2025.05.14
クリニック奮闘記
Vol.894 クリニックにおける残業時間削減の壁
業務効率化だけでは解決できない理由とは?
「業務効率化を進めているのに、スタッフの残業が一向に減らない...」
そんな悩みを抱えるクリニックの経営者は少なくありません。特に看護師や医療事務スタッフなど、日々の業務に追われる現場では、「残業ありきの働き方」が常態化しているケースもあります。
今回は、クリニックにおける残業時間削減の本質的な課題と、改善に向けた具体的なアプローチについて解説します。
① 残業が減らない本当の理由:問題の本質は"制度"ではなく"動機"
残業手当が生活の一部に
多くの医療機関で問題となっているのが、「残業手当=生活給」という現実です。
例えば、月3万〜5万円程度の残業代が毎月支給されているスタッフにとって、それは家計を支える大事な収入源です。たとえ業務が定時で終わったとしても、「あえて帰らない」心理が働きます。
つまり、制度上は残業削減が可能でも、働く側の"インセンティブ構造"が変わっていないため、残業は自然に減らないのです。
残業=評価、という誤認識も
また、「遅くまで働く=頑張っている」と評価される職場風土がある場合も注意が必要です。頑張りの"見える化"が、残業によって担保されているのだとすれば、そこには組織文化の見直しが求められます。
② 残業削減に向けた改善の糸口:3つのアプローチ
1. インセンティブの再設計
まず検討したいのが、業務の効率化で得た利益を"別の形"でスタッフに還元する仕組みの導入です。たとえば:
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業務改善報酬制度:業務改善提案や時間短縮に貢献したスタッフに報奨金を支給
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定時帰宅インセンティブ:一定期間残業をしなかったスタッフに一時金や特別休暇を付与
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成果給制度の導入:単に時間ではなく成果(レセプト処理件数や患者対応数など)に応じた手当へシフト
「残業しないと損をする」という認識から、「効率的に働いた方が得をする」という発想への転換が必要です。
2. 管理職やリーダー層の意識改革
現場をまとめるリーダーや管理職が、「定時退勤が推奨されるべき働き方」であると認識し、率先して実行することも重要です。
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日報や勤怠記録に「退勤目標時刻」を記載する
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残業の理由を全て明示させ、やむを得ないものだけを認める
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チーム単位での残業削減目標を設定し、改善実績を可視化する
3. 残業の"見える化"と"共有化"
「どの業務で時間がかかっているのか」「誰がどの時間帯に残っているのか」をデータとして可視化することも、有効なアプローチです。
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タスク管理ツールを導入し、作業時間を記録
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業務分担を見直し、偏りを是正
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週次ミーティングで残業状況をスタッフ全員で確認し、改善案を出し合う
現場全体で「残業=コスト」という認識を持つことが、組織的な改善の第一歩になります。
③ 単なる"効率化"ではなく、"働き方改革"という視点を
残業時間を減らすためには、単に業務を効率化するだけでは不十分です。
むしろ、職場の価値観や報酬体系、働き方に対するマインドセットの転換が求められています。
今後のクリニック経営では、「効率化によるコスト削減」と「スタッフの満足度向上」の両立がカギになります。
【まとめ】残業削減は「働かない」ことではなく、「成果を上げる新しい形」
残業が常態化している職場において、「なぜ減らないのか」を真正面から見つめ直すことが、真の業務改善につながります。
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生活給化している残業手当の見直し
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評価制度の再構築とインセンティブの改革
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チーム全体で残業削減に取り組む仕組みの構築
これらを同時並行で進めることが、持続可能なクリニック運営につながります。
現場の声を丁寧に拾いながら、無理なく残業削減を実現していきましょう。