2025.08.04
クリニック奮闘記
Vol.961 個別指導後の「変革」と「継続」〜クリニックの質を高めるPDCAサイクル〜
指導の終わりは「始まり」〜未来志向のクリニック経営〜
個別指導を終えた院長先生の心には、安堵とともに、様々な感情が去来していることでしょう。しかし、個別指導の終わりは、クリニック経営における新たな「始まり」を意味します。指導官からの指摘を真摯に受け止め、それを今後のクリニック運営にどのように活かしていくか、この「変革」と「継続」のプロセスこそが、クリニックの質をさらに高め、患者さんからの信頼を揺るぎないものにする鍵となります。
前回のブログでは、個別指導当日の冷静かつ的確な対応について解説しました。本ブログでは、個別指導後の具体的な改善策と、保険診療の適正化に向けた継続的な取り組み、すなわちPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)の導入について深掘りし、院長先生が未来志向のクリニック経営を実現するための道筋を示します。
個別指導後の「反省」と「分析」:建設的なフィードバックとして
個別指導の結果として得られた指摘事項は、決してネガティブなものではありません。むしろ、客観的な視点からクリニックの改善点を洗い出してくれた「建設的なフィードバック」と捉えるべきです。
1. 指摘事項の徹底的な分析
個別指導で指摘された事項を、一つ一つ詳細に分析しましょう。
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なぜ指摘されたのか?:請求上の誤り、カルテ記載の不備、医学的根拠の不足など、指摘の根本原因を特定します。
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繰り返し発生する可能性は?:今回指摘された内容が、他の患者さんの診療やレセプト請求でも発生する可能性がないかを確認します。
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クリニック全体の問題か?:特定の医師やスタッフによる問題か、あるいはクリニック全体のシステムやルールに起因する問題かを把握します。
2. 返還金が発生した場合の対応
もし返還金が発生した場合は、その金額と内訳を正確に把握し、速やかに対応計画を立てます。返還金の発生は、今後のレセプト請求に際して、より一層の注意と正確性が求められることを意味します。
「変革」のステップ:具体的な改善計画の策定と実行
分析結果に基づき、具体的な改善計画を策定し、迅速に実行に移しましょう。
1. 改善計画の策定
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目標設定: どのような状態を目指すのか、明確な目標を設定します。例えば、「カルテ記載の不備をゼロにする」「特定の点数の算定要件を全てのスタッフが理解する」など、具体的な目標を立てます。
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具体的な行動計画: 目標達成のために、誰が、何を、いつまでに実行するのか、具体的な行動計画を立てます。
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責任者の明確化: 各改善策について、責任者を明確にすることで、実行の確実性を高めます。
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期限の設定: 各行動計画に期限を設定し、進捗管理を行います。
2. 実行:組織全体での取り組み
改善計画は、院長先生一人の努力で完結するものではありません。スタッフ全員が同じ認識を持ち、組織全体で取り組むことが成功の鍵となります。
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スタッフへの情報共有と教育: 指摘内容と改善計画をスタッフ全員に共有し、必要に応じて勉強会や研修を実施します。特に、算定要件やカルテ記載のルールなど、保険診療に関する知識の習得を徹底します。
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診療プロセスの見直し: 診療の流れの中で、どのような点で不備が生じやすいかを特定し、プロセスの改善を行います。例えば、検査オーダー時のダブルチェック体制の導入、カルテ記載時のテンプレート活用などが考えられます。
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レセプトチェック体制の強化: レセプト作成後のチェック体制を強化します。複数人でのチェックや、レセプト点検ソフトの活用なども有効です。
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院内ルールの明確化と徹底: カルテ記載、検査指示、投薬指示などに関する院内ルールを明確にし、全スタッフに周知徹底します。マニュアル化することも効果的です。
「継続」のサイクル:PDCAによる恒常的な質向上
一度改善策を実行しただけでは、時間の経過とともに、再び同様の問題が発生する可能性があります。そこで重要となるのが、PDCAサイクルによる恒常的な質の向上です。
P (Plan: 計画)
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目標設定: 保険診療の適正化、医療の質向上に関する具体的な目標を設定します。
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改善計画の策定: 目標達成のための行動計画を策定します。
D (Do: 実行)
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計画の実行: 策定した計画をスタッフ全員で実行します。
C (Check: 評価・確認)
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進捗状況の確認: 計画がどの程度実行されているか、目標達成に向けて進捗しているかを定期的に確認します。
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効果の測定: 改善策が実際に効果を上げているか、レセプトエラー率の減少やカルテ記載の改善度合いなどを測定します。
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課題の洗い出し: 計画通りに進んでいない点や、新たな課題がないかを洗い出します。
A (Act: 改善・行動)
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改善策の見直し: 評価・確認の結果に基づき、改善策を修正したり、新たな改善策を検討したりします。
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標準化: 成功した改善策は、クリニックの標準的な業務プロセスとして定着させます。
このPDCAサイクルを定期的に回し続けることで、クリニックは常に進化し続け、保険診療の適正性を維持しながら、質の高い医療を提供し続けることができます。
継続的な学習と情報収集
保険診療のルールは、頻繁に改正されます。最新の情報を常にキャッチアップし、クリニック全体で共有することが不可欠です。
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定期的な情報収集: 診療報酬点数表の改正、関連通知、疑義解釈など、常に最新情報を確認する習慣をつけましょう。
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勉強会への参加: 医師会や関連団体が開催する保険診療に関する勉強会やセミナーに積極的に参加しましょう。
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専門家との連携: 医療専門のコンサルタントや会計事務所、弁護士など、外部の専門家との連携を継続し、困った時にはすぐに相談できる体制を構築しておくことも重要です。
まとめ:個別指導は「飛躍」のチャンス
個別指導は、一時的には「重圧」と感じるかもしれませんが、その経験をバネにして、クリニックの質を向上させ、より強固な経営基盤を築くための「飛躍のチャンス」と捉えることができます。
指導後の「変革」と「継続」、そしてPDCAサイクルを回し続けることで、院長先生のクリニックは、保険診療の適正性を保ちながら、患者さんからより一層信頼される医療機関へと成長していくでしょう。次回のブログでは、個別指導を乗り越えた院長先生が、今後どのように自身のクリニックの「強み」を活かし、地域医療への貢献を深めていくかについて考察します。