vol.1030 24時間体制の現実 ― オンコール・看取りをどう支えるか

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クリニック奮闘記

2025.11.11

クリニック奮闘記

vol.1030 24時間体制の現実 ― オンコール・看取りをどう支えるか

―在宅医療クリニックの持続可能な体制構築に向けて―

1.はじめに

在宅医療クリニックの特徴は、患者の生活の場に直接医療を提供する点にある。しかし、病院と異なり、24時間365日体制での医療提供が求められることが多く、特にオンコール対応や看取りは経営者・医療スタッフ双方に大きな負担を課す。在宅医療においては、夜間や休日に急変が生じる可能性が常にあり、これに対応できる仕組みがなければ、患者の安全や地域医療の信頼は維持できない。

このような体制は、クリニックの経営にとっても重大な課題である。医師や看護師の過重負担は離職につながりやすく、人材不足をさらに深刻化させる。また、オンコール体制や看取り対応を含めた24時間運営は、人件費や業務管理コストの増大を招くため、経営の持続可能性に直接影響する。したがって、在宅医療における24時間体制の構築と管理は、単なる現場運営の問題ではなく、経営戦略上の核心課題である。


2.在宅医療におけるオンコール業務の特性

在宅医療において、オンコールとは、診療時間外に急変や相談があった場合に医師や看護師が対応する業務を指す。これには、電話での指示、訪問による診療、家族への心理的サポートが含まれる。訪問件数が多いクリニックでは、1日の間に複数の呼び出しが発生することもあり、スタッフの負担は軽視できない。

オンコール対応が持続可能であるかどうかは、クリニックの人材体制と業務設計に依存する。医師・看護師の負担を均等化するローテーション、地域連携による補完体制、ICTツールを用いた情報共有など、さまざまな工夫が必要である。特に小規模クリニックでは、一部の医師に負担が集中しやすく、 burnout(燃え尽き)や離職のリスクが高まる。


3.看取り対応の現状と課題

在宅医療におけるもう一つの重要な業務は、看取りである。高齢患者や終末期患者の増加に伴い、在宅での最期のケアは社会的ニーズが高まっている。しかし、看取りは医療技術だけでなく、患者や家族への心理的支援、医療倫理の判断、急変時の対応能力など、多岐にわたる能力を要求する。

看取り対応が不十分であると、患者や家族の満足度が低下するだけでなく、地域からの信頼も損なわれる。その結果、新規患者の紹介ルートや地域連携が影響を受け、経営面にも波及する。したがって、看取り対応をクリニック運営の標準プロセスとして組み込むことは、医療の質を維持する上で不可欠である。


4.24時間体制を支える組織設計

24時間体制を持続可能にするためには、組織設計が重要である。具体的には、以下の要素が考慮されるべきである。

第一に、業務の分担と負担の可視化である。医師・看護師・事務スタッフそれぞれの責任範囲を明確にし、オンコール対応や訪問看取り件数を均等化する。これにより、一部のスタッフに負荷が集中することを防ぎ、長期的な安定運営を支える。

第二に、外部連携の活用である。訪問看護ステーションや地域の救急医療機関との協力により、急変時の対応力を高めることができる。また、夜間や休日のコールセンターを導入することで、現場スタッフの負担を軽減する事例も増えている。

第三に、ICTツールの導入である。訪問スケジュールの管理、カルテ情報の共有、患者情報のリアルタイム更新などをクラウド上で統合することで、迅速かつ正確な対応が可能となる。情報の透明性が高まれば、スタッフ間の意思疎通も円滑化し、心理的安全性の確保にも寄与する。


5.教育とチームの強化

オンコールや看取り対応に必要なスキルは、経験だけで習得できるものではない。定期的な研修や症例検討会、ロールプレイングによる危機対応訓練を通じて、スタッフの判断力と対応力を体系的に向上させる必要がある。また、看取りにおける倫理判断や家族対応の方針を明文化し、チーム全員で共有することも重要である。

チームの強化は、心理的安全性の向上にもつながる。スタッフが安心して意見を出せる環境では、急変時の報告や相談が円滑になり、患者に対する対応の質も向上する。このように教育とチームづくりは、24時間体制の持続可能性を高めるための基盤である。


6.経営への影響と持続可能性の視点

24時間体制を維持することは、クリニック経営にとってコストとリスクの両面を伴う。医師・看護師の人件費増加、オンコール手当、移動費用、情報共有システムの導入費用など、直接的コストは少なくない。また、スタッフの疲弊や離職は、教育コストの増加、訪問件数の減少、地域信頼の低下という形で間接的コストを生む。

一方で、24時間体制を適切に設計し運営できれば、経営の安定性が高まる。オンコール体制や看取り対応の品質が確保されれば、患者・家族の満足度向上や地域からの信頼獲得につながる。これは、新規患者紹介の増加や訪問件数の安定化、ひいては収益の安定化にも直結する。経営視点からみれば、24時間体制の構築は単なるコストではなく、将来的な収益確保のための投資として位置づけられる。


7.まとめ

在宅医療における24時間体制は、単なる現場業務の課題ではなく、クリニック経営の持続可能性を左右する重要な要素である。オンコール対応や看取り業務はスタッフに大きな負担を課すが、適切な組織設計、外部連携、ICTツールの活用、教育・チーム強化を通じて、持続可能な体制を構築することが可能である。

在宅医療クリニックの経営においては、「人を中心に据えた体制づくり」と「業務の見える化・標準化」が、医療の質と経営の安定性の両方を支える鍵である。制度改定や診療報酬の変動に左右されない、持続可能な在宅医療経営を実現するためには、24時間体制の課題を戦略的に捉え、具体的な運営設計を行うことが不可欠である。