vol.1035 経営理念(診療理念)の作成手順 ― 実践的プロセスと事例分析

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クリニック奮闘記

2025.11.19

クリニック奮闘記

vol.1035 経営理念(診療理念)の作成手順 ― 実践的プロセスと事例分析

クリニックの診療理念を作成する際には、「院長の個人的な信念」を書き並べるだけでは不十分である。理念は組織全体の行動指針として機能するため、体系的なプロセスに基づいて作成する必要がある。以下では、理念策定の必要条件と実際のクリニック事例を踏まえた実践的手順について論じる。

理念策定の第一歩は、院長自身の価値観の抽出である。多くのクリニックでは、日々の診療業務の中で理念が曖昧になり、スタッフと院長の間に認識のズレが生じているケースが見られる。ある内科クリニックでは、院長が予防医療を重視していたにもかかわらず、スタッフは急性疾患中心の外来運営を想定しており、両者の方向性が一致していなかった。そこで、院長は開業時の動機や地域への貢献意識を整理する"価値観の棚卸し"を実施し、「地域の健康寿命の延伸に寄与する予防医療の推進」というミッションを明確に定義した。これにより、スタッフ研修や外来運営が理念に沿って再構築され、予防外来の受診者は半年で1.5倍に増加した。

次に重要なのが、現場の課題整理である。理念は現場の課題解決と結びつくときに実効性を発揮する。たとえば、説明不足によるクレームが多いクリニックでは「丁寧な説明」を理念に組み込むことで、看護師や受付スタッフの行動が統一される。また、スタッフ間のコミュニケーション不足が課題となっている場合、「互いを尊重するチーム医療」を理念の柱に掲げることで、職場内の対話促進や業務フロー改善につながる。

理念文の作成では、簡潔性と再現性が重要である。クリニックの理念は長文である必要はなく、むしろ短く覚えやすい文の方が浸透しやすい。先行研究においても、組織理念の浸透度は「文の長さ」より「行動への落とし込みのしやすさ」に強く依存することが示されている。

さらに、ミッション・ビジョン・バリューへの展開が不可欠である。理念が抽象的な組織価値観であるのに対し、ミッションは組織の存在目的、ビジョンは将来像、バリューは行動指針を示す。理念からこれらを体系的に派生させることで、スタッフは理念を日々の業務でどう活用すべきかを理解できる。

最後に、理念は作成して終わりではなく、共有と実践の段階で真価を発揮する。院内研修、朝礼での読み上げ、ホームページ掲載、患者説明への自然な取り込みなど、多様な手段を通じて理念を「日常的に参照されるもの」へ変換することが必要である。

理念策定プロセスは、クリニックの組織文化を再定義し、地域医療の質を高める重要な営みである。体系的な手順を経ることで、理念は単なる文章ではなく、クリニックを支える「経営基盤」として機能する。