Vol.1049 収益構造の変動性とクリニック経営の脆弱性に関する考察

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クリニック奮闘記

2025.12.10

クリニック奮闘記

Vol.1049 収益構造の変動性とクリニック経営の脆弱性に関する考察

クリニック経営において、収益構造の把握は財務会計の根幹を成す。しかし、多くの医療機関では「月次の増減を感覚的に把握する」段階にとどまり、精緻な収益分析が行われていない。特に外来診療を主たる収入源とする診療所では、患者数の増減、診療単価、季節変動、流行疾患の影響などが複雑に絡み合い、収益の変動性が極めて高い。これらの変動要因を体系的に整理せず、単月ベースの経営判断に依存すると、クリニック経営は短期的な"揺らぎ"に翻弄されやすくなる。

収益の変動性を抑制するためには、まず収益構造を因数分解し、どの要素がクリニックの利益を左右しているかを正確に把握する必要がある。一般に、外来収益は「患者数 × 診療単価 × 診療報酬制度」によって決定されるが、この中で最も医療機関がコントロール可能なのは「診療単価」である。診療単価は医学的妥当性に基づく算定であるため、恣意的な操作は許されないものの、算定漏れを排除し、各種加算の取得状況を最適化することにより、単価の改善は十分可能である。

一方で「患者数」は外部環境要因に左右される。特に近年は、医療機関間の競争激化、人口動態の変化、コロナ禍後の受診行動の変容などにより、患者数の予測が困難になっている。さらに、高齢化に伴う慢性疾患の増加は追い風となる一方、労働人口の減少による若年層患者の縮小は逆風として作用する。このように、収益を規定する根本的な要素が外部環境の影響を強く受ける点に、クリニック経営の本質的な脆弱性がある。

収益分析を精緻に行うためには、月次の増減要因を「構造要因」と「偶発要因」に分割する視点が有効である。構造要因とは、診療科特有の季節性や、定期的に発生する患者層の受診パターンなど、比較的安定した要因を指す。一方、偶発要因には流行疾患、天候、地域イベントなどが含まれ、突発的・一過性の変動をもたらす。これらを分解することで、経営者は「今月の変動は構造的な悪化なのか、それとも偶発的な揺らぎなのか」を正しく判断できる。

経験的な経営管理の手法では、この分解をより実践的に行うために、収益データを"日次"の粒度まで落とし込み、診療行為別に分類することを推奨する。日々の診療行為の積み上げが最終的な収益に結実する構造を可視化することにより、現場における些細な変動が経営全体にどのような影響を与えるかが、定量的に把握できるようになる。このアプローチは、単なる記録ではなく、現場スタッフの行動やオペレーション改善へと直結しやすい。

クリニックは一般企業と異なり、提供するサービスが高度で専門性が高いため、売上の拡大には限界がある。そのため、「売上の安定性をどう確保するか」が財務健全性の鍵を握る。安定性確保の一手段として、近年では自由診療の導入が広がっている。自由診療は保険診療と比べ収益変動が小さく、単価も高いため、収益構造全体の安定化に寄与する。ただし、自由診療の導入は医療機関としての理念、地域におけるポジション、患者層の特性などを慎重に考慮しなければならない。過度な自由診療への依存は、医療機関としての公共性を損ない、長期的な信頼を損ねる可能性もある。

最後に、収益構造の変動性に対処するためには、単に収益の上下を見るのではなく、「変動を生む構造」を理解することが不可欠である。クリニック経営においては、財務データを現場の行動単位にまで落とし込み、収益の源泉がどこにあるのか、どの要素が改善可能なのかを明確にしたうえで、組織全体で共有する取り組みが求められる。これにより、単月の結果に振り回されない、持続的で安定した経営の実現が可能になる。