Vol.1059 2026年度診療報酬改定の総括と「2040年を見据えた医療提供体制」のパラダイムシフト

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クリニック奮闘記

2025.12.22

クリニック奮闘記

Vol.1059 2026年度診療報酬改定の総括と「2040年を見据えた医療提供体制」のパラダイムシフト

はじめに

令和7年12月22日、2026年度診療報酬改定の全容が実質的に決定した。今回の改定は、単なる2年に一度の点数調整ではない。団塊の世代がすべて75歳以上となった「ポスト2025年」の最初の改定であり、かつ、生産年齢人口が急激に減少する「2040年問題」へのカウントダウンが始まったことを意味する。政府が掲げる「物価高騰・賃金上昇への構造的対応」と「新地域医療構想」の実現に向けた制度設計は、今後の病院・診療所経営の存立基盤を根底から揺さぶるものである。本稿では、今改定の歴史的意義を概括し、医療機関が直面する構造的変化について論じたい。

1. 改定の背景:マクロ経済と人口構造の二重圧

今回の改定において、最大の焦点となったのは「賃上げ」である。医療職種における人材流出は深刻であり、他産業に劣らぬ賃上げ原資の確保が診療報酬に強く求められた。決定された改定率は、初診料・再診料および入院基本料のベースアップを主眼としているが、これは医療機関にとっての「純増」ではない。むしろ、高騰するエネルギー価格、医薬品・医療機器の物流コスト上昇、そして最低賃金の引き上げに伴う管理コストの増大をいかに吸収するかという、生存のための最低限の措置と解釈すべきである。

2. 「新地域医療構想」と病床機能の再編

2026年度からは、従来の「2025年地域医療構想」をアップデートした「新地域医療構想」が本格稼働する。今改定では、病床機能の分化がさらに厳格化された。特に「地域包括ケア病棟」や「回復期リハビリテーション病棟」における入棟基準、および退院支援への評価が再編され、病院経営は「自院で何を完結させ、何を他院に委ねるか」という戦略的な意思決定を迫られている。もはや「全科フルスペック」での経営は、一部の基幹病院を除き、持続不可能であると言わざるを得ない。

3. 医療DXとアウトカム評価の義務化

特筆すべきは、医療DXの導入が「加算」から「前提条件」へと移行した点である。マイナ保険証の利用率、電子処方箋の導入、さらには外来・入院データの提出が、上位ランクの診療報酬を算定するための標準装備となった。さらに、点数評価の軸足が「行為の量」から「治療の結果(アウトカム)」へと明確に移りつつある。リハビリテーションのFIM(機能的自立度評価表)実績指数や、生活習慣病管理における重症化予防の実績など、エビデンスに基づいた質管理が、収益に直結する時代の幕開けである。

4. 医療経営に求められる「構造的適応」

これからの病院・診療所は、医療専門職の集団であると同時に、高度な経営能力を備えた「組織」へと脱皮しなければならない。2026年の改定を乗り越える鍵は、制度の隙間を縫うような小手先の算定技術ではなく、地域における自院の社会的価値を再定義し、それを具体的なデータと効率的な運用で裏付けることに集約される。

結びに代えて

令和8年度に向けた準備期間は、実質的に今この瞬間から始まっている。診療報酬改定は、国からのメッセージである。そのメッセージを「コスト増への補填」と捉えるか、「次世代型医療モデルへの転換」と捉えるか。その認識の差が、数年後の経営格差となって現れることは火を見るより明らかである。