2026.01.19
クリニック奮闘記
Vol.1078 医療情報・レセプト業務における集中リスクと分散戦略
クリニック経営において、診療行為そのものと同等、あるいはそれ以上に経営の安定性を左右するのが医療情報管理およびレセプト業務である。これらは直接患者と向き合う業務ではないため軽視されがちだが、災害やパンデミック、人材流動が常態化した現代においては、極めて高いリスク集中領域となっている。本稿では、医療情報とレセプト業務の構造的特徴を整理し、分散戦略としてのBPOの意義と限界について考察する。
多くのクリニックでは、レセプト業務が少数、時には一人の熟練スタッフに依存している。平時においては効率的であり、算定精度も高い体制であるが、この属人化構造は一度破綻すると回復が困難である。災害による出勤不能、パンデミックによる長期離脱、あるいは突然の退職といった事態が発生した場合、レセプト請求が停止し、数か月後に資金繰りへ影響が及ぶケースも少なくない。
東日本大震災では、紙媒体や院内サーバーにのみ情報を保管していた医療機関が、データ消失や参照不能に直面した。近年は電子カルテの普及により状況は改善しているものの、アクセス権限や操作方法が特定スタッフに集中している場合、実質的なリスク構造は変わっていない。医療情報の電子化は、分散の前提条件ではあっても、それ自体が分散を保証するものではない。
レセプト業務の特性として、診療から請求までに時間差が存在する点が挙げられる。この時間差は、業務分担や外部化を可能にする一方で、問題発覚が遅れるというリスクも内包する。算定誤りや返戻が続いた場合、その影響が顕在化するのは数か月後であり、その時点では原因究明が困難となることも多い。したがって、チェック体制の多重化は経営安定の観点から不可欠である。
BPOは、この集中リスクを分散させるための一つの有効な手段となり得る。複数人によるチェック体制や、制度改定情報の共有といった点では、組織的に運営されている外部委託先が優位性を持つ場合もある。また、院内業務が逼迫した際のバックアップ機能としても評価できる。
一方で、すべての医療情報・レセプト業務を外部に委ねればリスクが消失するわけではない。個人情報保護、情報セキュリティ、責任分界の明確化といった課題は不可避である。特に、算定方針や運用ルールが院内で共有されていない状態で外部化を進めると、現場と乖離した請求が行われる危険性がある。
重要なのは、集中と分散のバランスである。すべてを院内に集約するのでもなく、すべてを外部に委ねるのでもない。業務を工程ごとに分解し、専門性・即時性・リスク耐性という観点から最適な配置を設計することが求められる。これは単なる業務改善ではなく、経営リスク管理の一環として位置づけられるべき課題である。
結論として、医療情報とレセプト業務は、クリニック経営における典型的な集中リスク領域である。災害や感染症、人材流動といった不確実性が高まる時代においては、分散戦略を前提とした業務設計が不可欠となる。BPOはその一手段に過ぎないが、構造的視点をもって活用することで、経営レジリエンスを高める重要な要素となり得る。
