2026.01.19
クリニック奮闘記
Vol.1079 クリニック経営におけるBPOの限界と課題
これまで、災害、パンデミック、診療科特性、医療情報・レセプト業務という視点から、クリニック経営におけるBPOの意義を検討してきた。しかし、BPOは万能な解決策ではなく、その限界や課題を正しく理解しない限り、新たなリスクを生む可能性もある。本稿では、BPOをめぐる典型的な誤解を整理し、内製化と外注化の二項対立を超えた視点から、持続可能な業務設計について考察する。
第一の課題は、「外注すれば楽になる」という発想である。BPOは業務を移管する行為であって、業務そのものが消滅するわけではない。業務定義、マニュアル整備、情報連携、成果物の検証といった管理業務は必ず残る。これらを軽視したまま外部化を進めると、院内外の責任分界が曖昧となり、トラブル時の対応が困難になる。BPOは管理能力を不要にするのではなく、むしろ管理の質を問う仕組みである。
第二の課題は、院内知識の空洞化である。すべての事務業務を外部に委ねた場合、院内に制度理解や算定知識が蓄積されにくくなる。これは短期的には問題がなくとも、診療方針の変更や新たな算定項目導入時に柔軟性を欠く要因となる。特に院長や事務長が業務全体を把握できていない状態は、経営判断の質を低下させる。
第三に、BPOには適用限界が存在する。患者対応や現場判断を要する業務は、外部化に適さない場合が多い。受付での説明、クレーム対応、診療フローの微調整といった業務は、クリニック固有の文化や方針と密接に結びついており、標準化や遠隔対応には限界がある。これらを無理に外部化すると、患者満足度の低下を招く恐れがある。
こうした課題を踏まえると、重要なのは内製化か外注化かを選ぶことではなく、両者をどのように組み合わせるかという設計思想である。業務を「戦略的業務」と「支援的業務」に分解し、前者は院内で保持し、後者は外部の力を活用するという整理が有効である。この視点に立てば、BPOは経営の補助線として機能する。
また、BPOを導入しないという選択にもリスクが存在する。属人化が進んだままの業務構造は、災害や退職といった突発事象に脆弱である。BPOの是非を議論する際には、導入リスクだけでなく、非導入リスクも同時に評価する必要がある。
結論として、クリニックBPOは効率化策でもコスト削減策でもなく、経営レジリエンスを高めるための一つの構造的手段である。その限界と課題を理解した上で、内製と外注を対立概念ではなく補完関係として捉えることが、これからの医療経営には求められる。平時と非常時の双方を見据えた業務設計こそが、持続可能なクリニック経営の基盤となるのである。
