2026.01.19
クリニック奮闘記
Vol.1080 BPOを「効率化」ではなく「経営しなやかな持続力持続力(外部環境の変化や非常時に耐え、立て直す力)」として捉える視点
これまで本連載では、災害、パンデミック、診療科特性、医療情報・レセプト業務、そしてBPOの限界という複数の視点から、クリニック経営における業務構造の課題を検討してきた。本補論では、それらを総括する形で、BPOを単なる効率化手法としてではなく、「経営のしなやかな持続力(外部環境の変化や非常時に耐え、立て直す力)」を高めるための構造要素として捉え直す視点を提示する。
医療機関におけるBPOは、これまで主に人手不足対策やコスト管理の文脈で語られてきた。しかし、阪神・淡路大震災や東日本大震災、さらにはCOVID-19パンデミックが示したのは、平時において合理的とされていた業務構造が、非常時にはそのまま脆弱性へと転化するという事実である。人・場所・時間に強く依存した運営体制は、いずれか一つが欠けただけで機能不全に陥る。
ここで重要となる概念が「経営のしなやかな持続力(外部環境の変化や非常時に耐え、立て直す力)」である。しなやかな持続力とは、外部からの衝撃を完全に防ぐことではなく、衝撃を受けても致命的な損失を避け、回復し、適応していく能力を指す。クリニック経営においては、診療行為そのものだけでなく、事務・管理・情報といった非診療領域も含めた総合的な回復力が問われる。
BPOを経営のしなやかな持続力(外部環境の変化や非常時に耐え、立て直す力)の文脈で捉えると、その役割は明確になる。第一に、人的リスクの分散である。特定のスタッフに依存した業務構造は、平時には効率的であるが、災害や感染症、退職といった事象に対して極めて脆弱である。業務の一部を外部に切り出すことは、院内人材が欠けた際の緩衝材として機能する。
第二に、知識と情報の分散である。診療報酬制度や運用ルールは頻繁に改定され、その理解と適用には継続的な学習が必要となる。院内だけで対応する場合、この負担は少人数に集中しがちである。外部リソースを活用することで、情報更新の遅延や解釈ミスといったリスクを低減できる可能性がある。
第三に、時間軸の柔軟性である。レセプト業務やデータ管理といった業務は、診療と同時並行で行う必要はない。時間的猶予のある業務を分離することで、非常時においても限られた院内リソースを診療に集中させることが可能となる。
一方で、BPOを導入すること自体がしなやかな持続力を保証するわけではない。業務定義が不十分なまま外部化を進めれば、責任分界の不明確さや情報伝達の断絶といった新たなリスクを生む。経営のしなやかな持続力(外部環境の変化や非常時に耐え、立て直す力)を高めるためには、業務を内製か外注かで二分するのではなく、機能単位で再設計する視点が不可欠である。
また、BPOは「非常時のためだけの仕組み」でもない。平時においても、業務の見える化や標準化を促進し、属人性を低減する効果を持つ。これは、結果として職員の教育や引き継ぎを容易にし、人材流動が進む時代における組織適応力を高めることにつながる。
診療科や規模を問わず、すべてのクリニックが同じ形でBPOを導入すべきではない。しかし、自院の業務構造を俯瞰し、「止まってはいけない業務は何か」「止まった場合に最も影響が大きい工程はどこか」を明確にする作業は、すべての医療機関に共通して必要である。その検討過程において、BPOは重要な思考ツールとなる。
結論として、BPOは効率化やコスト削減の手段にとどまらず、クリニック経営のしなやかな持続力を支える構造的要素として再定義されるべきである。平時と非常時を切り分けるのではなく、両者を連続したものとして捉えた業務設計こそが、これからの医療経営における重要な課題である。
