2026.01.27
クリニック奮闘記
Vol.1081 忙しいのに利益が残らないクリニック
午前中から待合室は混雑し、診療が終わる頃にはスタッフも院長も疲れ切っている。それでも月末の試算表を見ると、思ったほど利益が残っていない。このような違和感を覚えた経験を持つ院長は少なくない。
クリニック経営において「忙しさ」と「経営の安定」は必ずしも比例しない。むしろ、忙しさの裏にこそ経営上の歪みが潜んでいることが多い。
事例1:患者数が増えても資金繰りが改善しなかった内科クリニック
ある内科クリニックでは、地域での評判が広がり、1日あたりの患者数は開業当初の約1.5倍に増加していた。診療時間は延び、スタッフも増員して対応していたため、院内は常に活気があった。
しかし、月次の損益を確認すると、利益はほとんど増えていなかった。売上は確かに伸びていたものの、人件費と外注費も同時に増加していたのである。特に、混雑への対応として追加した非常勤医師や検査外注のコストが、売上増加分をほぼ相殺していた。
院長は「患者数が増えれば自然と利益も増える」と考えていたが、実際には診療単価や費用構造を把握しないまま規模だけが拡大していた。忙しさが増した分、経営を振り返る時間が取れず、数字を見る習慣も後回しになっていたことが問題を見えにくくしていた。
事例2:月次売上だけを見ていた皮膚科クリニック
別の皮膚科クリニックでは、毎月の売上は安定しており、大きな赤字も出ていなかった。そのため、院長は経営状態を「問題なし」と判断していた。
しかし詳しく確認すると、日別の売上には大きなばらつきがあった。特定の曜日や時間帯に患者が集中する一方、比較的空いている時間帯にも同じ人数のスタッフを配置していたため、人件費効率が悪化していたのである。
また、繁忙日に対応するために常時多めの人員を配置していた結果、固定費比率が徐々に上昇していた。月次売上だけを見ている限りでは気づきにくいが、「1日あたりの売上」「時間帯別の生産性」に目を向けることで、初めて課題が浮かび上がった。
忙しさが経営課題を覆い隠す
これらの事例に共通するのは、院内が忙しく回っていることで、経営上の違和感が後回しにされていた点である。現場対応に追われるほど、数字を見る余裕は失われがちになる。
しかし、クリニック経営において重要なのは売上の多寡ではなく、限られた時間と人員でどれだけ効率よく価値を提供できているかという視点である。患者数の増加が、そのまま利益増加につながらないケースは珍しくない。
数字を見る習慣が経営を変える
経営改善の第一歩は、難しい分析を行うことではない。日別売上、診療単価、人件費率といった基本的な指標を定期的に確認するだけでも、現場の見え方は大きく変わる。
忙しさに慣れてしまうと、「今さら変えられない」「現場が回っているから問題ない」と考えがちになる。しかし、その忙しさが続けられるものなのか、持続可能な体制なのかを問い直すことは、院長自身の負担を軽減することにもつながる。
クリニック経営において、忙しさは努力の証明である一方、経営状態を保証するものではない。数字と向き合う時間を意識的に確保することが、次の安定につながると言えるだろう。
