2026.01.27
クリニック奮闘記
Vol.1082 業務改善に反対するベテラン事務スタッフ
クリニック経営において、業務改善や効率化は避けて通れないテーマである。電子カルテの導入、業務マニュアルの整備、役割分担の見直しなど、院長としては「より良い医療提供のため」に必要な取り組みだと考えている。しかし、その動きに対して強い抵抗を示すのが、長年勤務してきたベテランの事務スタッフであることは少なくない。
院長側から見れば「なぜ反対するのか理解できない」と感じる場面でも、現場では別の論理が働いていることが多い。
事例1:電子カルテ導入に強く反発した受付スタッフ
あるクリニックでは、紙カルテから電子カルテへの移行を検討していた。院長としては、診療効率の向上や情報共有の円滑化を目的としており、時代の流れとしても自然な判断だった。
ところが、20年以上勤務してきた受付スタッフが強く反発した。「今のやり方で問題は起きていない」「操作を覚える時間がない」といった理由が表向きの主張だったが、実際には不安の正体は別のところにあった。
そのスタッフは、長年の経験によって受付業務を円滑に回してきた自負があり、院内で一定の存在感を持っていた。電子カルテの導入によって、その"経験値"が評価されなくなるのではないか、若いスタッフと同じ土俵に立たされるのではないか、という不安があったのである。
結果として、導入準備は遅れ、院内の雰囲気も一時的に悪化した。業務改善そのものではなく、「変化によって失われるかもしれない自分の立場」への恐れが、反対という形で表面化していた。
事例2:業務マニュアル作成を拒んだ医療事務スタッフ
別のクリニックでは、レセプト業務が特定の医療事務スタッフに集中していた。院長は属人化のリスクを感じ、業務マニュアルの作成と複数人対応を進めようとした。
しかし、その中心人物であるスタッフは「日々の業務で手一杯」「マニュアルを作る時間がない」と消極的な姿勢を崩さなかった。表面的には業務量の問題に見えたが、背景には「自分しかできない仕事」という立場が揺らぐことへの抵抗があった。
業務が可視化され、誰でも対応できるようになることは、組織全体にとっては望ましい。しかし個人の視点では、自身の価値が下がるのではないかという不安につながる場合がある。このズレが、改善への反発として現れていた。
なぜベテランほど変化を嫌うのか
これらの事例から見えてくるのは、反対の理由が必ずしも「怠慢」や「非協力的な姿勢」ではないという点である。長く同じ環境で働いてきたからこそ、現在のやり方で成果を出してきた自負があり、それが変化への抵抗感につながる。
また、医療事務という職種は評価基準が曖昧になりやすく、経験年数や属人的な対応力が暗黙の価値として扱われてきた側面もある。業務改善によってそれらが数値化・標準化されることは、安心感を揺るがす要因になりやすい。
院長に求められる視点
業務改善を進める際、院長が「正しさ」だけで押し切ろうとすると、現場との溝は深まる。必要なのは、なぜ反対が起きているのかを冷静に観察する視点である。
改善そのものを急ぐよりも、変化によって何が変わり、何が守られるのかを丁寧に共有することが、結果的に近道になることも多い。特にベテランスタッフに対しては、これまでの貢献が否定されるものではないことを、言葉と態度で示す必要がある。
業務改善は人の問題でもある
業務改善は、手順やツールの問題であると同時に、人の心理の問題でもある。現場で長く積み上げてきた経験や役割意識を無視したまま進めると、表面的には導入できたとしても、運用が形骸化するリスクが高い。
クリニック経営において、ベテラン事務スタッフの存在は大きな財産である。その力を活かしながら変化を進められるかどうかが、組織としての成熟度を左右すると言えるだろう。
