Vol.1083 在宅医療を始めたが院長の負担が増えたケース

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クリニック奮闘記

2026.01.27

クリニック奮闘記

Vol.1083 在宅医療を始めたが院長の負担が増えたケース

高齢化が進む中で、在宅医療や訪問診療への期待は年々高まっている。外来中心の診療体制では支えきれない患者が増える中、地域医療の一翼を担う存在として在宅医療に取り組むクリニックも増えてきた。

一方で、「思った以上に院長の負担が重い」「外来よりも大変だった」という声が聞かれるのも事実である。在宅医療は診療内容そのもの以上に、体制設計の巧拙が成否を分ける分野だと言える。

事例1:医師がすべてを抱え込んでしまった在宅診療

あるクリニックでは、地域からの要望を受けて在宅医療を開始した。患者数は徐々に増え、診療としての手応えも感じていたが、院長の負担は想定以上に膨らんでいった。

訪問診療だけでなく、患者家族からの相談、急変時の連絡、介護サービスとの調整など、医療行為以外の対応が日常的に発生していた。それらを「断れないもの」として院長自身が引き受け続けた結果、外来終了後も電話対応に追われる日々が続いた。

医学的判断だけでなく生活背景に関わる相談まで医師が担う状態では、診療の質以前に、体制として持続可能とは言えない。結果として、在宅医療への意欲はあったものの、継続そのものを再考せざるを得なくなった。

事例2:多職種連携が機能せず孤立した訪問診療

別のクリニックでは、訪問診療のスケジュール管理や診療内容は比較的整理されていた。しかし、訪問看護師やケアマネジャーとの情報共有が十分ではなく、医師が単独で判断を迫られる場面が頻発していた。

夜間や休日の連絡も院長に集中し、結果としてオンコール対応の負担が増加していた。本来、在宅医療は医師・看護・介護が役割分担しながら支える医療であるが、連携が不十分な状態では、医師一人に責任が集約されてしまう。

このケースでは、診療行為そのものよりも、「誰が何を担うのか」が曖昧なままスタートしたことが、負担増加の大きな要因となっていた。

在宅医療は"診療メニュー"ではない

これらの事例から見えてくるのは、在宅医療を外来診療の延長線上で捉えてしまう危うさである。在宅医療は単なる診療メニューの一つではなく、生活を支える医療としての位置づけを持つ。

患者の状態だけでなく、家族構成や介護体制、住環境といった要素が診療に直結するため、医師だけで完結することは少ない。むしろ、多職種が関与することを前提とした設計が不可欠である。

医師の役割を再定義する

在宅医療における医師の役割は、「すべてを自分で診る存在」ではなく、「医学的判断の中核を担う存在」である。医療・看護・介護がそれぞれの専門性を発揮し、その調整役として機能することで、初めて負担の分散が可能になる。

この視点が欠けたままでは、どれだけ志が高くても、院長個人の献身に依存した体制となり、長期的な継続は難しくなる。

継続できる在宅医療の条件

在宅医療を無理なく続けていくためには、収益性や診療報酬以前に、体制設計を優先して考える必要がある。誰が一次対応を担い、どの段階で医師が関与するのか。情報共有の手段や判断基準をどこまで共通化できているのか。

これらが整理されていない状態では、患者数が増えるほど負担も比例して増加してしまう。

在宅医療は地域にとって重要な役割を担う一方で、設計を誤ると院長自身を消耗させるリスクをはらんでいる。理念と現実の間を埋めるのは、個人の努力ではなく、仕組みである。