2026.01.27
クリニック奮闘記
Vol.1085 院長が現場を離れた瞬間、クリニックが回らなくなった理由
「院長がいないと何も決まらない」----こうした状態に心当たりのあるクリニックは少なくない。日常診療が滞りなく進んでいるように見えても、院長が学会や休暇で不在になると、現場が混乱してしまう。その背景には、属人化という見えにくい問題が潜んでいる。
事例1:判断がすべて院長に集約されていたクリニック
あるクリニックでは、診療方針だけでなく、スタッフ対応や患者対応の細かな判断まで、すべて院長が行っていた。スタッフは「最終的には院長に確認する」という姿勢が定着しており、問題が起きても自ら判断することはほとんどなかった。
その結果、院長が数日間不在になった際、現場では些細な判断ができず、業務が停滞した。スタッフ自身も「間違えたくない」という思いから動けず、院内の緊張感が高まっていった。
このケースでは、院長の存在が安心材料である一方、その安心感が自立を妨げていた。
事例2:業務マニュアルが存在しなかった現場
別のクリニックでは、業務は長年の慣習によって回っており、明確なマニュアルは整備されていなかった。スタッフそれぞれが経験をもとに対応していたため、普段は大きな問題は生じていなかった。
しかし、ベテランスタッフと院長が同時に不在となった際、新人スタッフは対応に困り、患者対応や会計処理に遅れが生じた。「聞けば分かる」「見て覚える」という文化が、非常時には機能しなかったのである。
属人化が生まれる理由
属人化は、意図的に作られるものではない。多くの場合、忙しさの中で効率を優先した結果として生じる。院長自身が判断した方が早く、確実であるため、自然と業務が集中していく。
また、スタッフ側も「院長に任せた方が安全」という意識を持ちやすく、結果として役割分担が曖昧になる。こうして、特定の人に依存した体制が固定化されていく。
院長不在が浮き彫りにするもの
院長が不在になったときに起きる混乱は、その期間だけの問題ではない。それは、日常業務の中で積み重なってきた構造的な課題が表面化したに過ぎない。
属人化が進んだ組織では、誰かが抜けた瞬間に全体が揺らぐ。一方で、仕組みが整った組織では、個人の不在が致命的な影響を及ぼすことは少ない。
自立した組織に近づくために
属人化を完全になくすことは難しいが、依存度を下げることは可能である。判断基準や業務手順を共有し、「誰がいなくても最低限回る状態」を目指すことが重要になる。
それは院長の役割を弱めることではなく、むしろ本来注力すべき医療や経営判断に集中できる環境を整えることにつながる。
院長が現場を離れてもクリニックが回るかどうかは、組織としての成熟度を測る一つの指標と言える。日常が問題なく回っている今だからこそ、その裏側にある依存構造を見直す視点が求められている。
