2026.02.09
クリニック奮闘記
Vol.1095 人財育成は未来への投資である ― 短期効率と長期価値の分岐点 ―
クリニック経営において、人財育成はしばしば「余裕があれば取り組むもの」として扱われる。日々の診療、スタッフ対応、経営判断に追われる中で、育成は後回しになりがちである。それは、多くの院長にとってやむを得ない現実でもある。
しかし、これまで見てきたように、人財育成を先送りにした結果として生じる問題は、決して小さくない。業務の属人化、判断の集中、成長の停滞。これらはすべて、短期的な効率を優先した結果として、時間をかけて表面化してくる。
人を育てることは、即効性のある施策ではない。教育や指導に時間を割いても、すぐに成果が見えるわけではない。むしろ、最初のうちは非効率に感じる場面の方が多いだろう。そのため、人財育成は「コスト」として捉えられやすい。
だが、視点を変えると、人財育成は将来の負担を軽減するための投資であることが見えてくる。
経験を積んだスタッフが増えることで、院長の判断負担は確実に減っていく。すべてを自分で決め、確認し、修正する必要がなくなるからである。判断が分散されることで、組織全体の対応力も高まる。これは、時間とともに効果が積み上がっていく投資の特徴と重なる。
クリニックという小規模事業所では、この効果がより顕著に現れる。人が少ないからこそ、一人ひとりの経験値が経営に与える影響が大きい。逆に言えば、経験が偏った状態を放置することは、将来のリスクを抱え込むことでもある。
院長の中には、「人を育てても辞めてしまうのではないか」という不安を抱く人も少なくない。しかし、育成を怠った結果として人が辞めるケースもまた、多く存在する。成長の実感を得られない職場では、仕事は単なる作業になりやすく、やりがいは生まれにくい。
経験を積み、判断を任される環境では、スタッフは自分の役割を自覚し、組織との関係性を深めていく。必ずしも全員が長く勤め続けるわけではないが、少なくともその期間において、クリニックにもスタッフにも価値のある時間が生まれる。
人財育成を未来への投資と捉えるということは、短期的な効率だけで判断しないという姿勢を意味する。目の前の忙しさを理由に任せることをやめるのではなく、将来の自分や組織がどうありたいかを基準に判断することが求められる。
これまで述べてきたように、成長は失敗や不確実性を伴う。だが、その過程で得られた経験は、誰かから奪われるものではない。積み重ねられた経験は、判断力や対応力として組織に残り続ける。
クリニックの差は、ある日突然生まれるものではない。
日々の小さな判断の積み重ねが、数年後に明確な違いとして表れる。
人に任せるか、自分で抱え込むか。
短期の安定を選ぶか、長期の価値を選ぶか。
人財育成とは、その選択の連続である。
これからの医療環境は、決して安定したものではない。制度の変更、患者ニーズの変化、人材確保の難しさ。そうした不確実性の中で、最終的にクリニックを支えるのは、経験を積んだ人財である。
人財育成は、目立たない取り組みかもしれない。しかし、それは確実に未来を形づくる。
クリニック経営における人財育成とは、今日の業務をこなしながら、同時に未来をつくる行為なのである。
