Vol.1097 過度な細密指示が医療現場にもたらす構造的問題

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クリニック奮闘記

2026.02.16

クリニック奮闘記

Vol.1097 過度な細密指示が医療現場にもたらす構造的問題

医療機関のマネジメント実務において、「指示は具体的であるほど望ましい」という前提は根強く存在している。特にレセプト請求業務や医療事務領域では、ヒューマンエラー防止の観点から詳細な手順指示が重視される傾向にある。しかしながら、知識集約型業務という特性を踏まえると、過度な細密指示は必ずしも業務品質の向上に直結しないどころか、むしろ構造的な弊害を生む可能性がある。

第一に指摘すべきは、想定外事象への対応力の低下である。レセプト業務は一見すると定型処理の集合体のように見えるが、実態としては個別判断の連続である。病名付与の適否、症状詳記の要否、算定要件の境界判断など、マニュアル化が困難な局面が日常的に発生する。細部まで規定された手順に依存する組織では、担当者の思考が「前例参照型」に固定化しやすく、制度改定や個別事例への適応速度が低下する傾向が観察される。

第二の問題は、業務改善の停滞である。医療機関の医療事務部門では、長年の慣行として残存している非効率な業務プロセスが少なくない。例えば、電子カルテ導入後も残る紙ベースの確認工程、複数システム間での二重入力、過剰なチェック工程などは、多くの現場で指摘されている。細密指示型のマネジメント環境では、現場スタッフは「指示された通りに処理すること」が最適行動となるため、既存フローそのものを疑う動機が弱くなる。結果として、組織全体の生産性改善が進みにくい構造が固定化する。

第三に、責任構造の曖昧化という問題がある。逐次指示型の環境下でミスが発生した場合、現場では「指示通りに実行した」という認識が生じやすい。これは個人の責任回避という意味ではなく、判断主体が実質的に上位者側に移転していることを意味する。この状態では、組織としての学習が蓄積されにくく、同種のエラーが反復するリスクが高まる。

さらに重要なのは、人材育成への影響である。レセプト請求代行業務や院内医療事務において求められるのは、単純作業の正確性だけではなく、制度理解に基づく判断力である。過度に手順を固定化した環境では、スタッフは作業遂行能力は向上するものの、判断能力の伸長が抑制される傾向にある。医療機関における慢性的な人材不足を考慮すると、この点は中長期的に無視できない経営課題となる。

以上のように、細密指示中心のマネジメントは短期的な統制感をもたらす一方で、想定外対応力の低下、業務改善の停滞、責任構造の曖昧化、人材育成の遅延といった複合的リスクを内包している。したがって、医療機関における部下への指示の出し方は、「どこまで細かく指示するか」という量的発想から、「どの判断を現場に委ねるか」という質的設計へ転換していく必要がある。

特にレセプト請求代行サービスの品質向上を志向する医療機関においては、判断力を持つ医療事務人材の育成が不可欠であり、その前提として指示体系そのものの再設計が求められている。