Vol.1157 離職防止ができないクリニックに共通する問題とは

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クリニック奮闘記

2026.05.12

クリニック奮闘記

Vol.1157 離職防止ができないクリニックに共通する問題とは

クリニック経営において、「採用できない」という問題以上に深刻なのが、「採用しても辞めてしまう」という問題である。

現在、多くのクリニックでは人材不足への対策として求人活動を強化している。しかし、実際には採用コストをかけて人材を確保しても、数ヶ月で退職してしまうケースが少なくない。

このような状況では、院内業務は常に不安定となり、既存スタッフへの負担も増加する。結果として、さらなる離職を招く悪循環へ陥っていく。

つまり、現代のクリニック経営では、「採用力」以上に「離職防止力」が問われる時代になっている。

特に医療業界では、スタッフ一人が退職することによる影響が極めて大きい。受付業務、会計、レセプト、診療補助などは密接に連携しており、一人欠けるだけでも現場負担が急激に増加する。

さらに近年は、慢性的な人材不足により、「辞めた後の補充ができない」という問題も深刻化している。

東京都内のある整形外科クリニックでは、数年間にわたり看護師の離職が続いていた。院長は「最近の若いスタッフはすぐ辞める」と感じていたが、退職者ヒアリングを実施すると、別の問題が見えてきた。

スタッフの多くは、「忙しさ」そのものではなく、「不公平感」に強い不満を抱いていたのである。

具体的には、

「特定のスタッフだけが残業している」 「ベテランだけが優遇されている」 「注意される人とされない人がいる」

といった声が多く挙がった。

つまり、離職の背景には単なる業務負荷だけではなく、"感情的疲労"が存在していた。

医療現場では、どうしても院長の関心は診療へ集中しやすい。しかし、スタッフは日々、「自分がどう扱われているか」を敏感に感じ取っている。

特に問題となりやすいのが、「コミュニケーション不足」である。

例えば、院長がスタッフへ指示を出す際、結果だけを求めてしまうケースがある。

「これ、早くやっておいて」 「どうしてできていないの?」

このような言葉が続くと、スタッフは「責められている」と感じやすくなる。

一方で、

「忙しい中ありがとう」 「助かったよ」

という短い言葉があるだけで、職場への印象は大きく変わる。

離職防止において重要なのは、高度な心理学ではなく、「基本的な人間関係」である。

また近年は、ベテランスタッフによる"見えない圧力"も問題になりやすい。

ある在宅クリニックでは、新人事務スタッフが半年以内に退職する状況が続いていた。調査すると、教育係となっていたベテランスタッフが、「忙しいから後で」「そんなことも知らないの?」という対応を繰り返していた。

院長自身は診療に追われ、その状況を十分把握できていなかった。

結果として、新人は孤立し、「質問できない職場」と感じて退職していたのである。

このケースでは、教育担当者を複数化し、毎週短時間の面談を導入したところ、新人定着率が改善した。

離職防止において重要なのは、「問題が起きてから対応する」のではなく、「問題が起きる前に兆候を察知する」ことである。

例えば、

  • 急に会話が減る
  • 表情が暗くなる
  • 有給取得が増える
  • ミスが増える

こうした変化は、離職サインである場合が少なくない。

しかし多くのクリニックでは、退職届が出て初めて問題が表面化する。

実際には、その数ヶ月前から組織内では小さな不満が積み重なっているのである。

また、離職防止には「心理的安全性」も重要視されている。

心理的安全性とは、「困った時に相談できる」「失敗を責められない」と感じられる状態を指す。

特に医療現場では、ミスを完全にゼロにすることは難しい。そのため、問題を隠す文化よりも、「早く共有できる文化」が重要となる。

院長が強い口調で叱責する組織では、スタッフはミスを隠しやすくなる。その結果、医療安全リスクも高まってしまう。

つまり、離職防止は単なる人事問題ではなく、医療安全や患者満足にも直結する経営課題なのである。

今後、医療人材不足はさらに進行すると予測されている。

その中で重要になるのは、「辞めない組織」を作れるかどうかである。

離職率が低いクリニックでは、特別な制度があるわけではない。むしろ、日々のコミュニケーションや公平性、相談しやすい空気感といった、"小さな積み重ね"が組織を支えている。

採用難時代において、本当に必要なのは「採用テクニック」ではなく、「人が辞めにくい組織文化」なのかもしれない。