Vol.1159 採用難時代に問われる「院長のマネジメント力」

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クリニック奮闘記

2026.05.12

クリニック奮闘記

Vol.1159 採用難時代に問われる「院長のマネジメント力」

クリニック経営において、これまで院長に最も求められてきた能力は、「診療力」であった。

しかし2026年現在、経営環境は大きく変化している。

人材不足、人件費高騰、患者ニーズ多様化、医療DX、口コミ社会――こうした変化の中で、院長には「経営者」としての役割がより強く求められるようになっている。

特に重要となっているのが、「マネジメント力」である。

ここでいうマネジメントとは、単なる指示命令ではない。

組織を安定的に運営し、スタッフが能力を発揮できる環境を整える力を意味する。

実際、多くのクリニックで発生している問題の背景には、「マネジメント不全」が存在している。

例えば、

  • スタッフ間トラブル
  • 新人教育不足
  • 指示の不統一
  • 院長への不信感
  • 離職増加

これらは単なる個人問題ではなく、組織運営上の問題として捉える必要がある。

東京都内のある耳鼻咽喉科クリニックでは、院長が非常に優秀な臨床医として知られていた。しかし一方で、院内では慢性的にスタッフ離職が続いていた。

原因を分析すると、院長は診療中のストレスをそのままスタッフへぶつける傾向があった。

混雑時には語気が強くなり、ミスに対して感情的に叱責する場面も多かった。

院長自身には悪気はなかった。しかしスタッフ側は、「常に怒られるかもしれない」という緊張状態に置かれていたのである。

その結果、院内では"報告しない文化"が形成されていた。

問題が起きても相談されず、結果的に患者クレームや医療ミスリスクが高まっていた。

このケースでは、外部研修を通じて院長自身がコミュニケーションを見直し、「叱責」ではなく「確認」を意識するようになった。

すると、徐々にスタッフ間の会話が増え、離職率も改善していった。

マネジメントにおいて重要なのは、「正しさ」だけではない。

医療現場では、院長の判断が正しい場面は多い。しかし、正しいことを"どう伝えるか"によって、組織への影響は大きく変わる。

特に近年は、若い世代を中心に、「一方的に叱責されること」への耐性が低下していると言われる。

もちろん、必要な指導は重要である。しかし、人格否定型の指導や感情的な対応は、組織崩壊リスクを高める。

また、マネジメント力とは「全てを自分で抱え込まない力」でもある。

クリニック経営者の中には、

  • 自分が一番詳しい
  • 任せると不安
  • 最後は自分がやった方が早い

と考える院長も少なくない。

しかし、その状態では組織は育たない。

特にスタッフ数が増えるほど、「院長一人経営」は限界を迎える。

愛知県内のある整形外科クリニックでは、院長が業務改善会議へ主任スタッフを参加させるようにした。

それまでは、備品管理から患者導線改善まで、全て院長が決定していた。しかし、現場スタッフの意見を取り入れるようにしたことで、待ち時間短縮やクレーム減少につながった。

さらに、スタッフ側にも「自分たちでクリニックを良くしている」という当事者意識が生まれた。

マネジメントとは、単に管理することではない。

「人が動きやすい環境を作ること」である。

また、近年は「感情マネジメント」の重要性も高まっている。

クリニック経営では、院長自身が強い孤独感を抱えやすい。

  • 経営不安
  • 採用難
  • クレーム
  • 診療プレッシャー
  • スタッフ問題

こうした負荷が重なると、院長自身が疲弊しやすくなる。

しかし、その不安定さは組織全体へ波及する。

特に小規模組織では、院長の感情が院内空気を左右する影響が大きい。

そのため、優れたマネジメントを行っている院長ほど、「感情を整理する習慣」を持っている。

例えば、

  • 即座に怒らない
  • 一晩置いて判断する
  • 第三者へ相談する
  • 感情と事実を分ける

といった行動である。

また、採用難時代においては、「教育できる組織」を作れるかも重要となる。

今後は経験者採用だけに依存することが難しくなる可能性が高い。そのため、未経験者や若手を育成できる体制が求められる。

しかし、教育とは単なる業務説明ではない。

「失敗しても学べる空気」を作ることが重要である。

マネジメント力とは、特別な才能ではない。

日々の関わり方、伝え方、組織への向き合い方の積み重ねによって形成される。

そして今後のクリニック経営では、この"院長の組織運営力"が、採用力や定着率を大きく左右する時代になっていくのである。