2026.05.12
クリニック奮闘記
Vol.1160 採用できない時代に、クリニック経営者が本当に考えるべきこと
2026年現在、多くのクリニックが「人材問題」に直面している。
求人を出しても応募が来ない。 採用しても定着しない。 教育する余裕がない。 既存スタッフが疲弊している。
こうした状況は、もはや一部のクリニックだけの問題ではない。
人口減少、少子高齢化、医療従事者不足、働き方価値観の変化など、社会構造そのものが大きく変わり始めている。
そのため、従来型の「採用すれば解決する」という考え方だけでは、今後のクリニック経営は難しくなっていく可能性がある。
本シリーズでは、
- 給与以外の魅力
- 離職防止
- スタッフ定着
- 院長のマネジメント力
について考察してきた。
これらに共通しているのは、「人材問題は組織問題である」という点である。
つまり、採用難とは単なる求人市場の問題だけではなく、組織文化や院長のマネジメント姿勢が大きく関係している。
例えば、同じ地域、同じ診療科でも、
- 人が集まるクリニック
- 人が辞めないクリニック
- 紹介応募が発生するクリニック
が存在している。
その違いは、必ずしも高給与や豪華な福利厚生ではない。
むしろ、
- 院内の雰囲気
- コミュニケーション
- 教育体制
- 公平感
- 感謝が伝わる文化
といった"見えにくい部分"が、組織力を左右している。
福岡県内のある在宅クリニックでは、かつてスタッフ離職が相次いでいた。
特に事務スタッフは、「毎日怒られる」「相談できない」という不満を抱えていた。
しかし院長は当初、「忙しい医療現場なのだから厳しくて当然」と考えていた。
その後、外部コンサルタントを交えた組織改善を実施し、毎朝5分の情報共有、月1回の個別面談、業務マニュアル整備を進めた。
すると半年後には離職率が低下し、スタッフ同士のフォロー体制も改善した。
結果として患者対応も安定し、口コミ評価まで改善したのである。
この事例が示しているのは、「組織改善は採用だけでなく、患者満足や医療品質にもつながる」という点である。
また近年は、Google口コミやSNSの影響により、"院内空気"そのものが外部へ可視化される時代になっている。
求職者は、単に求人票だけを見るわけではない。
ホームページ、口コミ、SNS、面接時の雰囲気などから、「ここで働き続けられるか」を総合的に判断している。
つまり今後は、
「どれだけ広告費をかけるか」ではなく、 「どれだけ働き続けたい組織を作れるか」
が重要になっていく。
さらに、採用難時代においては「完璧な人材を探す」という発想にも限界がある。
経験者不足が進む中では、未経験者や若手を育成できる組織力が求められる。
しかし教育とは、単にマニュアルを渡すことではない。
- 質問しやすい空気
- 失敗を共有できる文化
- 学びを支える姿勢
こうした土台がなければ、人材は育たない。
また、院長自身が「経営者」としての役割を意識することも重要である。
これまでのクリニック経営では、「良い医療を提供すれば人は集まる」という考え方が中心であった。
もちろん医療品質は最重要である。しかし現代では、それだけで組織を維持することが難しくなっている。
特に小規模組織では、院長の言動、感情、価値観が、組織文化へ直接影響する。
そのため、
- どんな言葉を使うか
- どう評価するか
- どう感謝を伝えるか
- どう話を聞くか
といった日々の行動が、採用力や定着率へ大きく関わっている。
もちろん、全ての問題を完璧に解決できるクリニックは存在しない。
しかし重要なのは、「人材問題を外部要因だけのせいにしない」ことである。
採用市場が厳しい時代だからこそ、院内組織を見直すことが、最も現実的な経営改善につながる可能性がある。
今後のクリニック経営では、
- 医療サービス
- 経営管理
- 組織運営
- 人材育成
を一体的に考える視点が求められる。
採用できない時代とは、単なる危機ではない。
「どのような組織を作るのか」が問われる時代なのである。
そして、その組織文化を形作る中心にいるのは、他でもない院長自身なのである。
