Vol.1161 診療報酬削減時代に進む「診療単価の低下」とクリニック経営の変化

レセプト代行サービス メディカルタクト
TEL:06-4977-0265
お問い合わせ
backnumber

クリニック奮闘記

2026.05.18

クリニック奮闘記

Vol.1161 診療報酬削減時代に進む「診療単価の低下」とクリニック経営の変化

2026年現在、クリニック経営を取り巻く環境は大きく変化している。

診療報酬改定による実質的な医療費抑制、人口減少、患者構造の変化、人件費高騰、さらには慢性的なスタッフ不足など、多くの経営課題が同時進行している。

その中で、近年特に深刻化しているのが、「診療単価の低下」である。

これまで多くのクリニックでは、「患者数を増やすこと」が経営改善の中心戦略となっていた。特に外来型クリニックでは、待合室が埋まり、患者数が増え続けることが"成功モデル"として認識されてきた。

しかし現在、そのモデルが徐々に機能しにくくなり始めている。

背景にあるのは、単なる患者減少だけではない。

むしろ問題なのは、「患者数は維持できているにもかかわらず、利益が残りにくくなっている」という点である。

大阪府内のある内科クリニックでは、コロナ禍以降、一時的に患者数が回復したものの、経営利益は以前より減少していた。

院長は当初、「患者数が戻れば経営も改善する」と考えていた。しかし決算分析を行うと、一人当たり診療単価が年々低下していることが判明した。

原因としては、軽症患者比率の増加、短時間診療の増加、慢性疾患管理料の算定構造変化などが影響していた。

さらに、人件費や光熱費、医療材料費の上昇によって、売上以上にコストが増加していたのである。

つまり現在は、「患者数が多い=利益が出る」という単純な構造ではなくなっている。

特に診療報酬制度は、今後も国全体の医療費抑制政策の中で運用されていく可能性が高い。

少子高齢化が進む中、社会保障費の増加は避けられない。そのため、クリニック経営者は「診療報酬は今後も伸び続ける」という前提では経営を考えにくい時代に入っている。

また、人口減少による患者母数の縮小も無視できない。

地方都市では既に、「患者数そのものが減少している」という現象が起き始めている。都市部であっても、競合クリニック増加によって患者分散が進んでいる。

その結果、多くのクリニックが「とにかく患者数を増やそう」と考え、診療回転数を上げる方向へ進みやすい。

しかし、この戦略には限界がある。

なぜなら、患者数増加は同時に、

  • スタッフ負担増加
  • 待ち時間増加
  • クレーム増加
  • 院長疲弊
  • 診療品質低下

を引き起こしやすいからである。

兵庫県内のある耳鼻咽喉科クリニックでは、花粉症シーズンになると一日150人を超える患者が来院していた。

一見すると繁盛しているように見える。しかし実際には、スタッフ残業が慢性化し、離職率も高まっていた。

さらに院長自身も疲弊し、「診療しているだけで一日が終わる」という状態になっていた。

結果として、患者数は多いにもかかわらず、利益率は低下していたのである。

ここで重要なのは、「売上」と「利益」は異なるという点である。

患者数依存型経営では、患者増加に比例して人件費や運営負担も増加しやすい。そのため、売上が増えても利益が残りにくい構造になりやすい。

さらに近年は、スタッフ採用そのものが難しくなっている。

以前であれば、「忙しくなったら人を増やす」という対応が可能だった。しかし現在は、求人を出しても応募が来ないケースが増えている。

つまり、患者数増加戦略は、「人材確保できること」が前提になっている。

しかし、その前提自体が崩れ始めているのである。

また、若い世代の医療スタッフは、「忙しすぎる職場」を避ける傾向が強まっている。

そのため、"回転数重視型クリニック"は、採用面でも不利になりやすい。

このような環境変化の中で、今後のクリニック経営には、「患者数を増やす」だけではなく、「一人当たり診療価値をどう高めるか」という視点が必要になる。

もちろん、単純に自由診療へ移行すればよいという話ではない。

重要なのは、自院の診療特性、地域特性、患者層、スタッフ体制を踏まえながら、「どのような収益構造を目指すのか」を再設計することである。

これからの時代、クリニック経営は「患者数競争」から、「持続可能性競争」へ移行していく可能性が高い。

そして、その変化の中心にあるのが、"診療単価低下"という問題なのである。