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2017.11.26

Vol.6 前職の病院からスタッフを引き抜き

先輩開業医に開業相談をするA医師。そこには共通のテーマがいくつかあることが分かったのです。1つは開業当初の患者獲得の苦労、もう1つはスタッフに関係する問題の多さです。患者を増やす努力は惜しまないにしても、スタッフの問題は厄介だなあと感じたA医師は、今の勤務先病院で気心の知れたスタッフの引き抜きを画策する様になりました。

あからさまに引き抜きをするのは流石に問題があるため、自分が開業することを伝える程度にします。

 

A医師「来年の1月に駅前のテナントで開業することになりました。」

看護師「おめでとうございます。私も先生のクリニックで働きたいです。人手が足らなかったら手伝いますよ!」

A医師「有難う、それはとっても心強いねえ。その時は宜しく頼むよ。」

 

こんな感じで、看護師と事務スタッフ、それぞれ1名ずつを連れて開業することができました。待遇は病院勤務時の給与を保証するというものでした。オープニングスタッフとしては、この人達の他公募で事務3名、看護師2名を採用しています。

 

患者さんの数が順調に伸びて一息付けた頃には開業して数か月が経過していました。患者数の心配がひと段落したらスタッフで頭を悩ますよ、という先輩開業医の予言通り、昇給の時期に事件は起こりました。個々のスタッフの昇給については顧問税理士と打合せの上で決定し、4月の給料支給日に個別面接をしながら昇給について説明を行いました。

問題が勃発したのは、勤務先から引き抜いてきた事務員の面接の時です。

 

A院長「いつも有難う。初めての昇給になりますが今年の昇給額は〇〇円です。」

事務員「えっ!病院で毎年昇給していた額よりも少ないですよ。B病院と同じ条件の約束ではないのですか!」

A院長「給料は同じだけ支払っていますよ。昇給まで同じというのはちょっと、、。」

事務員「それは困ります。」

こんなやり取りが続き、一行に結論にたどり着きません。

問題は昇給額に留まらず、夏に支給する予定のボーナスにまで及びました。

ここまで問題が大きくなることを想定していなかったA院長は、顧問税理士と相談の上で次の条件の提示を行いました。

昇給額について今期は当初に提示した金額どおり。ボーナスは夏冬合計で2ケ月、というもの。ランニングコストの支払いも何とか遣り繰りしている状態で、これ以上人件費を固定化することへの恐れから出した、現状ではギリギリの金額でした。

同じ病院から採用した看護師は残ってもらえることとなりましたが、残念ながら事務員は不満をぶちまけ退職することとなってしまいました。

 

(まとめ)

前職の勤務先からスタッフを引き抜く場合の注意点。

大病院と同じだけの処遇は、個人経営のクリニックではできません。病院と個人クリニックで異なる点を列挙すると、

・社会保険の適用事業所でないことがある

→協会健保と厚生年金の組み合わせが一般的ですが、クリニックの場合は医師国保と厚生年金の組み合わせが一般的です。(健康保険の違いはメリット、デメリットありますが、その違いは別の機会にお話ししたいと思います。)

 そもそも厚生年金の適用を受けていないクリニックの方が多い。

・昇給、賞与も病院並みの支給は困難

・退職金の支給規定や支給原資の確保ができていない

・有給休暇の取得も病院の様に自由にできない

 

スタッフの処遇は、眼に見える給料だけではなく、将来に対して発生するコストも考えて対応しなければなりません。また有給休暇をはじめ、法律的に認められている様々な権利の行

使も院長と相談して取得時期を決めていくことになります。

仕組み(システム)で運営している病院と違って、院長の采配一つで全てが決まっていくク

リニックでは、大盤振る舞いができるときもあれば、少し我慢を強いられることもでてきま

す。それが小規模なクリニックのいいところでもあるのですが、いずれにしても院長の対応

一つです。スタッフとの日頃のコミュニケーションは大切にして下さい。

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世の中に成功体験は数多くありますが、苦労話や失敗談を見聞きすることはあまりありません。クリニックの中で実際に起こった、先生方がこれから経験するかもしれないトラブル事例をエッセイ風に読みやすくまとめてみました。
成功ノウハウを真似るのは難しいですが、失敗のリスクを予見し、軽減することでクリニック経営を安定させることができます。本稿では思いがけないトラブルが連発しますが、「他山の石」として実際の経営に活かしてください。

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