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2017.11.26

Vol.9 給料だけがモチベーション?(行き過ぎた人事考課)

医療の現場は一般の会社と違い、経済原理が働きにくい環境にあります。「利益」の追

求ではなく、「安全」「安心」が優先される業種です。ですから、医療機関で働くスタッフは、医療サービスの質の向上やホスピタリティにモチベーションを求めることが多いのです。そんな医療機関の中でも、少し雰囲気の違うクリニックがあります。所謂、美容外科、美容皮膚科の領域です。本稿では、「利益重視」の美容皮膚科で起こった事件について取り上げてみたいと思います。

ここはメディカルエステを併設した美容皮膚科クリニック。A院長は医療だけでなく美容分野にも積極的で、開業10年経った現在では地元で美容皮膚科といえばAクリニック、と言われる程に不動の地位を築いてきました。ここで働くスタッフも看護師、エステティシャンを初め、受付に至るまで業界に精通したプロ集団の集まりです。クリニックの雰囲気はどちらかというと美容色の強いものであったと思います。

A院長はスタッフのモチベーションを高めようと、クリニックには珍しい歩合給制を導入しました。成果の出たスタッフには、より多くの報酬を支払うことでモチベーションと帰属意識を高めていけると考えたからです。

結果の測定には職種によって異なる数値目標を設定しています。

 

受付スタッフ・・・・電話の問合せの際に診療予約が取れた件数

看護師、エステティシャン・・・・申し込み件数と金額をポイントに置き換えて評価

 

給料アップの手段が明確なので、スタッフの動きには無駄がありません。目標達成の意識も高く必死に働く毎日です。いい面ばかりではありません。マイナス面としては、スタッフ間のコミュニケーションが乏しいこと、評価につながらないことはやりたがらないことがあります。その結果、スタッフが行う業務には隙間が生じ、放置された仕事が発生することは少なくありません。その隙間を埋めるのは、もちろんA院長です。スタッフの仕事の後始末をしながら辟易することはありますが、売上を上げてくれるスタッフには何も言えません。そんなある日、エステティシャンに対して大クレームが発生したのです。聞けば、常連の利用者さんに対する新商品のセールスがあまりにしつこかったというのです。

また次の日、今度は看護師の施術中に起こったクレーム。

処置が雑で施術内容が料金に見合ってないというもの。

そして追い打ちをかける様に、受付スタッフの電話対応に対するクレームです。予約件数を増やしたいがために、無理なアポイントを取った結果、時間通りに処置が終了しなかったというのです。この時は患者さんではなく、看護スタッフからもクレームが上がってきましたので、院内の空気は最悪の状態です。

全ての原因が行き過ぎた個人主義によるものであることは明白であり、A院長は歩合給制を抜本的に見直すとこにしました。改善点は2つ。仕事のモチベーションを「お金」ではなく「やりがい」に。そのためにスキルアップのための勉強会の開催、外部研修への積極的な参加も促します。もう一つは、スタッフ間の連携の仕組み作りです。院内で行われる全てのサービスは、A院長を中心としてチームで提供されるものであるということを再認識させること。個人の評価からチームとしての評価(クリニック全体としての評価)に切り替えることで、連帯感を持たせ様ようと考えました。

給料が減るからという理由で退職するスタッフも数名いましたが、残ったスタッフはA院長の意見を素直に受け入れてもらったため、院内改革は一応の成功は納めました。一時期はクリニックの収入も減りましたが、2年後には元の水準まで戻すことができました。

しかし、この時のクリニックには以前の様な殺伐とした雰囲気はなく、成果を全員で共有できる明るいクリニックに変わっていたのです。

 

(まとめ)

自由診療や物品販売もありますが、医療機関内で行われるサービスは医師をトップにした管理体制のもとで提供されています。クリニックでは、利益を追求していくモチベーションをスタッフに持たせるやり方は合いません。患者にしわ寄せが及ぶことが考えられるからです。結果の評価は個人に帰属させるのではなく、全体で共有できる仕組みにした方がよいでしょう。

 

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                                           代表コンサルタント  柳  尚信

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本当は知りたい失敗談!!

世の中に成功体験は数多くありますが、苦労話や失敗談を見聞きすることはあまりありません。クリニックの中で実際に起こった、先生方がこれから経験するかもしれないトラブル事例をエッセイ風に読みやすくまとめてみました。
成功ノウハウを真似るのは難しいですが、失敗のリスクを予見し、軽減することでクリニック経営を安定させることができます。本稿では思いがけないトラブルが連発しますが、「他山の石」として実際の経営に活かしてください。

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