2017.11.26
クリニック奮闘記
Vol.10 スタッフは、お互いの給料明細を見せ合っている
開業して10年も経つと経営的には安定期を迎えます。目の回る様な毎日の忙しさの前では、「経営」を考える余裕すらないでしょう。そんなAクリニックの院長に、新たな試練が待ち受けていたのでした。本稿では人事考課、特に給料をテーマにA院長が受けた衝撃についてお話ししたいと思います。
毎年、昇給の時期になると頭を痛めてるA院長ですが、今年も例年に違わず、スタッフの顔と給料明細をにらめっこしながら昇給額を思案しています。
A院長「看護師のB子さんは主任として皆をよくまとめてくれているから、評価してあげよう。」
「事務のC子さんはレセプトの試験に合格しなかったから、激励の意味も込めて今年はこれだけで我慢してもらおう。」
こんな感じで、一年間に起こった事象を思い浮かべながら各人の昇給額を決めていきまし
た。そして昇給が反映された4月の給与支給日を迎えました。一人一人にねぎらいの言葉
を掛けながら給料明細を手渡していきます。最後にA院長から、今回の昇給に関してスタ
ッフ全員に、、、、、
A院長「日頃は私を助けてくれて本当にありがとう! 今年も何とか皆さんの給料を昇給することができました。少なくて申し訳ないですが、これからも頼むよ。」
これで昇給に関しては一段落が付いたなと、安堵したA院長でした。
数日後、看護師のB子さんから今回の昇給に関して物言いが付いたのです。B子さんはス
タッフのとりまとめ役という立場なので、これはスタッフの総意であると考えなくてはな
りません。
B子 「先生、C子さんとD美さんが昇給に関して不満を漏らしています。他の人の給料と比べても、もう少し評価してあげてもいいかなと思います。」
A院長「他の人の給料と比べて? 他の人の給料明細は見たことがあるの?」
B子 「誰がいくらもらっているかは、みんな知ってますよ。給料明細は見せ合ってますから」
給料明細を見せ合うなんて、そんなことがあるの?と思われるかもしれませんが、クリニッ
クに限らず職場ではよくある話なんです。誰しも自分は頑張っていると思っているのです
が、自分の頑張りを他の人の給料明細と突き合わせることで確認をしようとするのです。
自分が納得する場合もあれば今回の様に不満が出る場合もあります。
この後、A院長は悩んだ挙句に出した結論は、毅然とした態度で臨むことでした。
A院長「今回の昇給に関して皆さんは不平不満があるようですが、昇給額は私からのメッセージだと受け取って下さい。」「皆さん一人一人が頑張っているのは承知しています。でも皆さんの頑張りが私の期待に応えられている人と、そうでない人がいるのも事実です。」「十分な説明をしなかった私にも責任があります。これから一人ずつ評価について説明をさせて頂きたいと思います。」
それぞれのスタッフは色んな気持ちを胸の内に収め、ひとまず事件は収束しましたが、A院
長の頭の中は来年の昇給だけでなく、この後やってくる賞与の評価のことでも頭が一杯に
なっていたのでした。
(まとめ)
スタッフ同士はお互いの給料明細を、見せ合っている場合が往々にしてあります。
明確な人事制度がないクリニックでは、評価が大きく給料に反映されることはありませんが、院長の少しのエコひいきにスタッフは敏感に反応します。正社員であれば1000円程度、パートの時給で10円程度の差であっても、金額以上の嫉妬心が職場に蔓延するのです。不幸にしてこの様な環境になった場合は、割り切って「評価しない」ことも選択肢に入ってきます。全員一律の昇給額、賞与も同額。そうすることで金額に対する不公平感はなくなります。しかしながら、本当に頑張っている人が報われない制度になりますので、逆に優秀なスタッフが辞めるリスクが高くなってしまいます。
本文中にも出てきましたが、給料は院長からスタッフへのメッセージです。制度にはメリットとデメリットの両方がありますが、一貫性のあるない運用こそが重要なのです。
メディカルタクト
代表コンサルタント 柳 尚信