Vol.16 クリニックで黒字倒産の危機

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2017.11.26

Vol.16 クリニックで黒字倒産の危機

 器械好きのA院長、今日も午前診療の終了後に医療機器メーカーのプレゼンを聞いています。年度末には税金対策の一環もありますが、心電計と血球検査機を購入したばかりだというのに、今度はHbA1cの測定機器の導入を考えている様です。目指すところは検査については院内で可能な限り完結させるというもの。確かに生活習慣病専門を唱っていることからも必要な機器の一つといえます。メーカーのデモが終了し、買う気満々のA院長です。電子カルテとの連携費用も合わせると総額600万円の投資。値引き交渉もそこそこに月末には納品されることとなりました。診療において重要度も高く、器機の稼働率も悪くない様にも思えます。

 

しかし、今年はこれで終わりません。電子カルテがリースアップすることとなり、こちらもリニューアルです。診察室2室に1台ずつ。受付に2台と処置室にも1台あります。全ての入れ替えに必要な資金は400万円です。

ここまでは診療に必要な機器の入れ替えなので、致し方ない部分はありますが、予想外だったのは、年末近くの内装の修繕費用です。処置室で大規模な水漏れがあり、排水管を含めた大営繕です。この時は修理だけに留まらず、流し台を初めとし家具の入れ替えもしなければならず、数百万円の出費となりました。これが数ケ月後にきいてくるとは、A院長は予想だにしていませんでした。

 

税理士 「今年の利益は3000万円なので納税は住民税を合わせると1200万円くらいになると思います。」

A院長 「え!そんなに利益がでてるんですか? 手元にはお金が全然ありませんよ。」

税理士 「機器の設備投資は全額が経費にはなりません。減価償却相当分だけが経費になるんですよ。」

    「年末の修繕費は全額経費ですが、設備の入れ替えについては、こちらも減価償却の対象になるんです。」

 A院長 「なるほど。見た目の利益ほどはキャッシュが残っていないのは、この減価償却のためなんですね。」

    「しかし、そうなると納税資金がないなぁ。銀行に相談に行ってきます。」

 

(まとめ)

 本稿は、いわゆる「黒字倒産」のリスクについてのお話しです。言葉の概念からすると、何故?という質問が飛んできそうですが、簡単に解説させて頂きます。

収入-支出=利益 これが基本的な考え方です(以下、図表参照)。しかしここに減価償却費という概念が入ると少し変わってきます。

例えば、600万円の器械(耐用年数5年)を購入したとしますと、キャッシュフローで考えますと、単純に600万円がキャッシュアウトしたということになるのですが、会計的には減価償却の対象となるため全額が経費にはなりません。例題の場合ですと1年に120万円しか経費化できません。もっと極端に言うと、年度末1月前ですと1ケ月分しか減価償却費は計上できません。その結果、600万円の支出があるにもかかわらず減価償却費としては10万円しか計上できないのです。

(図表)

☆基本パターン        ★例題のパターン

収入     5000    収入      5000

経常経費 (-)500    経常経費(-)  500

設備投資分(-)600    減価償却費(-)  10

利益     3900    利益      4490 → 課税対象

税金(-)  1950    設備投資分(-) 600   

手取     1950    減価償却費(+)  10      

               税引前手取  -3900      

                   税金(-)     2245     

                手取再計     -6145

 

基本パターンでは設備投資分600が経費化できると想定した場合、

※全て消耗品を購入したと想定する

支払=経費であるため、手元に残った資金=利益となりますが、

例題パターンでは、支払>減価償却費となるため内部留保を取り崩すことになりキャッシュフローに対するダメージが大きくなります。クリニックに内部留保があれば納税できますが、なければ納税の為に借入する必要が生じてきます。

黒字倒産の原因は、無計画な過剰設備投資にあります。ご注意下さい。

 

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                                           代表コンサルタント  柳  尚信

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世の中に成功体験は数多くありますが、苦労話や失敗談を見聞きすることはあまりありません。クリニックの中で実際に起こった、先生方がこれから経験するかもしれないトラブル事例をエッセイ風に読みやすくまとめてみました。
成功ノウハウを真似るのは難しいですが、失敗のリスクを予見し、軽減することでクリニック経営を安定させることができます。本稿では思いがけないトラブルが連発しますが、「他山の石」として実際の経営に活かしてください。

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