2017.11.28
Vol.19 分院経営は難しい
A院長は、あるコンサルタント会社からクリニックの譲渡案件の紹介を受けています。
クリニックの経営は順調で、次の展開を考えていた時期でもあったので興味深く聞くこととなりました。
コンサルタント 「院長先生、このクリニックから遠くない場所で譲渡案件があります。サテライト展開するには丁度よい位置関係ではない
かと思います。」
A院長 「なるほど、ここなら車でも10分程度の距離だし、連携が取りやすいね。」
コンサルタント 「先生のご専門の循環器だけでなく、消化器系の患者も多く来られています。相乗効果が図れるのではないでしょうか」
A院長 「いずれにしても、分院長を探さないといけないね。」
コンサルタント 「紹介会社に私の知り合いがおりますので、そこに相談してみましょう。」
程なくして、紹介会社よりドクターの紹介がありました。面接の結果、採用してもいいかなということになり、分院計画はトントン拍子に進んでいきます。
コンサルタント 「院長先生、これから譲渡契約に向けて詳細なデータの検証をしていきましょう。」
提示された資料としては、3期分の決算書と直近の試算表(損益計算書)です。
医業収入 年間8000万円、医業利益は報酬込みで2000万円は健全経営です。
スタッフの構成も40歳代が中心でパートスタッフのため、人件費も低めに抑えられています。
A院長 「財務面では問題なさそうですね。次にレセプトデータを見せてもらえませんか?」
今度は1年分のレセプトデータを監査(デューデリジェンス)することとなり、A院長と一緒に中身の検証を進めていきます。
A院長 「心エコーに腹部エコー、ECG。やはり生活習慣病の患者が多いね。食事指導もしっかりされいる様だ。
消化器疾患の内視鏡検査はどうされているのですか?」
コンサルタント 「はい。近隣病院へ紹介する様にされています。検査後は必ず返してもらっており、病診連携がしっかりできていますので
安心してください。」
この後は採用予定のドクターに、診療内容を見てもらうことになっています。
B先生 「私の専門は循環器なので、循環器疾患を中心に生活習慣病は診ることができます。消化器系はちょっと難しいですね。」
A院長 「難しい患者は他院へ紹介して下さい。かかりつけ医として総合的に診察して頂ければいいですよ。」
B先生 「自信はないですが頑張ってみます。」
譲渡契約締結後、分院として新クリニックがスタートしました。
新規開業ではなく継承開業なので一定の医業収入があるので経営的には安定したスタートです。
半年たち1年が経過した頃に、顧問税理士より受けた報告により問題が露見しました。
税理士 「A院長。分院の収入が当初と比べると40%減しています。このままではB先生の給料が出なくなってしまいます。」
A院長 「B先生、患者数が減っている様だけども、思い当たるところはありますか?」
B先生 「開設当初の消化器疾患の患者が減っているのだと思います。頑張ってはいるのですが・・・・・。」
A院長 「B先生の専門性を武器に戦略をたてましょう。もともとの患者属性に無理があったとも考えられます。」
この後、A院長は分院の立て直しを図るべく、B先生と話し合いの末、方針転換を模索することとなりました。
(まとめ)
経営指標の一つに「一人当たりの売上高」があります。
文字通りの意味なのですが、一般的には給料(人件費)の3倍を基準として考えられています。
給料相当分(1)、投資予算分(1)、法人内部留保(1)というイメージです。
分院展開する場合、新規開設においては分院長の給与を支払える様になるのに約2年、法人の利益まで考えると5年から7年の期間を要します。とりわけ分院長の給与が支払える様になる2年の間は本院からの持ち出しになるのですが、A院長の判断は、継承開業なら2年のタイムラグは発生しないとする考えに基づいてのものです。
ところが、B先生は自分の専門外の患者は、当初より他院へ紹介しようとする力が働くため、徐々に患者は離れていきます。
その結果、専門医でなくてもフォローしていけるはずの患者も離れることとなり赤字に転落してしまったのです。
雇われ院長に経営的なセンスを求めるのは難しく、安定期に入るまでは本院の院長が積極的に介入するなど任せきりにしないことです。
医師のキャリアとスキルはあっても、経営者としては初心者マークです。二人三脚で育てていかなければ、クリニックといえども倒産の危機を迎えることになります。
以下は一例です。分院長の育成に参考にして頂ければ幸いです。
①経営数値をオープンにして、一緒になって経営を考えていく
②分院における権限を委譲して、院長(経営者)としての自覚を持たせる様にする
③単年度、3か年5か年の事業計画を作成することで、クリニック経営を俯瞰させる
メディカルタクト
代表コンサルタント 柳 尚信