2018.02.12
Vol.70 医療法人化を考えるとき
クリニックを開業する時、まずは個人事業主としてスタートします。
この場合、税法上の区分としては「事業所得」と扱われます。
簡単に言いますと、「収入―経費=利益」の利益に相当する部分に所得税の累進課税が適用されることと
なります。開業後、数年の間に最高税率に達するクリニックが殆どなのですが、節税のための手段として
医療法人化の選択肢が出てきます。
ご存じのとおり、一旦医療法人にしてしまうと、もとの個人事業所には簡単に組織変更することはできま
せんので、メリットとデメリットを整理して検討していきましょう。
現在の医療法人は、「出資持分のない医療法人」しか認められておらず、後継者がいない場合は財産を国
に没収されてしまうのでは? という恐れから「法人化」しないクリニックもあります。
本稿では、現実的(実務的)な視点から「持分のない医療法人」について検討してみたいと思います。
税理士「今年も課税所得が3000万円を超えそうです。開業して10年、借入金もないことですから、医療法
人化して節税しませんか?」
A院長「昔は出資持分のある医療法人だったから、解散の時は残余財産の分配が受けられたけど、基金拠
出型の医療法人の場合、後継者がいないと国に没収されると聞いたんだけど。僕には後継者がいな
いから、気が進まないなぁ。」
税理士「確かに制度上はそうなっていますが、実務的な処理において財産が没収されるなんてことはあり
ませんよ。巷では間違った認識がされている様なので、解説していきましょう。」
(まとめ)
まず医療法人化のメリットとデメリットを簡単に整理してみましょう。
問題点については個別に解決案も提案していきたいと思います。
・メリット
税負担の軽減 ~ 個人事業主では「利益」に所得税の累進税率が課税されますが、医療法人から給与と
して報酬を受け取ることにより、給与所得控除の適用を受けることができます。
しかも家族で給与所得を分散して受け取ることができるのであれば、より低い所得税率が適用され、節税
効果が見込まれます。
また退職所得の活用により生涯にわたって所得税の軽減を図ることも可能になります。
事業の多角化 ~ 分院の開設や介護保険事業への展開が可能となります。
事業承継時の相続税の軽減 ~ 基金拠出型の医療法人の場合、拠出金を払い戻してしまえば、法人財産
に個人の相続税が課税されることはありません。
事業承継が簡単に行える ~ 理事長の変更のみで事業承継は完了します。
個人事業の場合の開業届、廃業届のボリュームを考えると事務負担はかなり少ないかもしれません。
・デメリット
社会保険への加入 ~ 厚生年金保険が強制適用されるため、医療法人にとっては負担増となる。
常勤医師等の高所得者をスタッフとして雇用している場合は、インパクトは大きいと考えられます。
逆にスタッフにとっては、厚生年金へ加入できることは福利厚生面ではメリットとして考えられます。
事務処理量が増える ~ 毎年の決算報告や資産登記だけでなく、議事録等の整備が必要になります。
これをデメリットと考える方もいらっしゃいますが、基本的なフォーマットがありますので、それ程の事
務負担ではないと考えます。また資産の総額登記や理事長の登記も必要になりますが、多少のコストはか
かりますが司法書士に依頼することで解決されます。
後継者がいない場合の取り扱い ~ 残余財産については国地方公共団体等へ帰属するものとされます
が、逆に言うと、財産を残さなければいいのです。法人の資産については可能な限り現金化し、その殆ど
を「役員退職金」という形で個人に還元すればいいのです。
空っぽの法人であれば没収されても損はありません。
後継者がいない場合の取り扱いについて補足しますと、次の後継者へのバトンタッチまでタイムラグがある場合、一旦休眠にしておき、事業再開できる状態になったときに復活させればいいでしょう。
注意すべきは、後継者のいない休眠法人は一定期間を経過すると行政機関の権限で、強制的に解散させら
れることがあります。都道府県によって取り扱いはことなりますが、概ね一年と考えて差支えないでしょ
う。この場合、期間の長短はさておき、行政機関と相談しながらの事業承継をお勧めします。
いざ復活しようとした時に医療法人がなくなっていた!なんてことのない様にしたいものです。
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
(参考)
コンサルレポートVol.5【医療法人化による節税対策の功罪】
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