2018.02.21
クリニック奮闘記
Vol.77 営業権は融資の担保にならない
今回は視点を変えて、クリニックのM&A(事業承継)における私の経験をお話ししたいと思います。
一般的にクリニックのM&A(事業承継)においては、新規開業するよりも事業リスクが少ないことがメ
リットとして考えられています。また設備に関しても、そのまま使用するのであれば、設備投資も抑える
ことができるため、メリットだらけの様にも思えます。
では、クリニック開業後30年を経過したクリニックをM&A(事業承継)する場合を例にとって検討してみ
ましょう。
医業収入8000万円(毎月の医業収入の平均650万円)
医業利益2500万円(理事報酬控除前の利益)
※医療機器他設備の帳簿価格1000万円 他リース資産有
まず一般的な相場として、このクリニックの評価は幾らになるでしょうか?
営業権については「年売法」「超過利益方式」、またレセプト請求額の3ケ月分など様々な計算方法があり
ます。
個別の専門的な解説は、コンサルティングレポートで解説していきますが(登録はこちらから
https://medical-takt.com/mail.html)、ここでは簡単に、ごく一般的に用いられている方法をご紹介しま
す。
クリニックの営業権(のれん代)としては1年間の医業利益(理事報酬控除前)の金額を用ます。
結果としては、おおよそレセプト3ケ月程度の金額になります。
ここでは2500万円がベースの営業権となります。
これに医療機器等の設備機器の帳簿価格をプラスしますので3500万円ということになります。
実務的には、ここから「売り手の事情」と「買手の事情」を考慮しながら金額を調整していきます。
では本題に入っていきます。買手のドクターが、このクリニックを購入しようとした場合、譲渡金額であ
る3500万円に2ケ月分の運転資金が必要になります。
患者がついていますので、新規開業時の様に1千万円単位の運転資金は必要ありませんが、余裕をもって
500万円の運転資金を準備し、合計で4000万円ということになります。
自己資金が1000万円あるとして3000万円を調達することになりますが、金融機関はどう評価するでしょう
か?
結論から言いますと、クリニックの営業権に相当する2500万円には融資する根拠がないと評価されていま
す。要するにクリニック経営は、医者個人のパーソナルスキルによるところが大きいため、M&A(事業承
継)後に医業収入が担保できるものではないと考えられているのです。
事例の場合、ドクター側(買い手)の希望とすれば、総額4000万円を15年の返済に持ち込みたいところで
はありますが、金融機関側の評価としては次の通りです。
・運転資金500万円(5年返済)・設備資金1000万円(5年~10年返済)
希望の金額を調達できないだけでなく、返済期間も短く毎月の返済に追われる形になります。
M&A(事業承継)前の8000万円の医業収入が、そのまま引き継げるとは考えていないばかりか、廃院する
リスクも想定して5年の短期融資を提示してきます。
引き継いだ設備は古いため、5年以内にリプレースや修繕の費用が発生することも想定されますので追加融
資を視野に入れる必要があります。
営業権部分を他の金融機関から調達できたとしても、同様に短期返済を求められればクリニックの経営リ
スクは高くなります。こうなるとM&A(事業承継)のメリットなど、どこかへ吹っ飛んでしまいます。
では、希望する金額と条件を金融機関から引き出すには、どうすればいいでしょうか?
医業収入の中味について精査する必要があります。
標榜されている診療科目と専門性(循環器、消化器、神経内科など)ではなく、実際の来院患者の属性を
調べます。また診療行為(特に検査項目)の精査を行い、買い手のドクターの診療方針との整合性を調べ
ます。その上で、実際に引継ぎ可能な患者を割り出します。売り手ドクターにとっては営業権の評価を下
げることにもなりますから慎重に行って下さい。目的は、営業権の評価を下げることではなく、一人でも
多くの患者を引き継ぐための方法を双方で検討することにあります。
こうして検討精査した営業権であれば、金融機関の評価も高くなりますので、希望の条件を引き出しやす
くなってきます。
普段の提供業務の中で、融資における金融機関との交渉過程をお話しすることはありませんが、実は、水
面下でこんな遣り取りをしています。参考にしてみて下さい。
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
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