2022.01.18
クリニック奮闘記
Vol.681 MS法人の終焉
昭和の頃、MS法人は個人の所得税の節税対策の手法として大流行しました。その後、一人医師医療法人の制度ができた後も一定の条件の下で、その有用性は認められてきましたが、消費税率のアップに伴い存在意義も薄らいできました。
私が会計事務所の書生時代は、担当先では100%に近い医療機関にMS法人がセットになっていました。消費税率が3%から5%になった頃、事務所の方針により全関与先の節税メリットの検証が行われた結果、その殆どを清算するすることになりました。私の担当先だけでも5年の間に数十件の清算申告を行いました。私の中では既に過去の遺産になっているMS法人ですが、今でも『業務受託』を行っている医療機関を時々目にします。税理士の提案の上で設立されたと思いますので、節税メリットだけでなく有効性は確認さえているものと信じていますが、そうでない先生方は今一度検証してみることをお勧めします。MS法人の有効性は税制面だけではありませんが、ここでは消費税に限定して検証してみることにします。
(例)法人税率30%で計算しています
・医療法人単独の収支モデル
医業収入8000万円 - 経費6600万円(理事報酬3000万円、事務員給与800万円、テナント家賃800万円、その他経費2000万円)= 利益1400万円 ※法人税420万円
・MS法人を設立し、事務員の業務委託とテナントの転貸を行います
■医療法人の収支
医業収入8000万円 - 経費5000万円(理事報酬3000万円、業務受託1000万円、テナントリース料880万円、その他経費2000万円)= 利益1120万円 ※法人税336万円
■MS法人の収支
売上高1880万円(業務受託1000万円、不動産賃貸収入880万円)- 経費(事務員給与800万円、テナント家賃800万円)=利益280万円 ※法人税84万円
(まとめ1)
医療法人とMS法人の法人税は合算すると、医療法人単体と同じになりますが、MS法人の売上には消費税が課税され(簡易課税を選択)、売上1880万円に対する消費税の納税額は85万円です。結果として"消費税"納税分が増税となります。
では消費税が免税になる様にMS法人の売上を1000万円未満に設定して検証してみましょう。(事務員の業務委託取引のみ行います)
■医療法人の収支
医業収入8000万円-経費6790万円(理事報酬3000万円、業務受託990万円、テナント家賃800万円、その他経費2000万円)=利益1210万円 ※法人税363万円
■MS法人の収支
売上高990万円(業務受託)-経費800万円(事務員給与)= 利益190万円
※法人税57万円
(まとめ2)
業務委託費という形で2社に分けただけなので、法人税のトータルは医療法人単体と同額です。同じなら損はないと思われるかもしれませんが、法人決算には税理報酬が発生しますし、赤字であってもの納税する必要のある道府県民税や市民税の均等割も発生します。
(総括)
消費税だけにフォーカスするとメリットはないと考えていいかと思います。法人を設立する場合、節税ではなく"事業の拡大"という観点に立って考えるのが本筋です。医療法人に寄生した法人ではなく、MS法人単独で事業が成り立つ様な運営が理想です。節税ではなく、事業規模を大きくして納税するということも頭の片隅に置いておきましょう。