2024.07.09
クリニック奮闘記
Vol.716 カスタマーハラスメントへの対策
クリニックにおけるハラスメントで、最近注目されているのがカスタマーハラスメント(カスハラ)です。『お客様は神様です』というのは昭和の時代のことであり、スタッフを守るためにも毅然とした対応が求められています。本稿では、クリニックのスタッフに対するカスハラについてのお話です。
小さな町のクリニックで働く看護師Aは、日々の業務に追われながらも、患者との温かい交流にやりがいを感じていました。医師の佐藤先生を中心に、スタッフ一同が一丸となって地域医療に尽力するこのクリニックは、地域住民からも信頼を寄せられ、親しまれていました。
カスハラの発端
ある日、常連患者の田中さんが診察に訪れました。田中さんは50代半ばの男性で、持病の治療のため定期的に通院している患者です。通常は穏やかな性格の田中さんですが、この日は何かが違っていました。受付で診察時間外にもかかわらず、「今すぐ佐藤先生に診てもらいたい」と強い口調で要求してきたのです。
看護師Aは丁重に「本日は診察時間外で、急を要する場合は緊急病院をご利用いただけますか」と説明しましたが、田中さんは聞く耳を持たず、待合室で大声を上げ始めました。「こんな対応じゃ困るんだ!」「いつも通ってる俺がこんな扱いを受けるのは納得できない!」と他の患者たちが不安な表情を浮かべる中、看護師Aは冷静に対処しようとしましたが、田中さんの怒りは収まりませんでした。
事態の悪化
その後も田中さんの行動はエスカレートしました。クリニックの受付に何度も電話をかけ、看護師Aを名指しで呼び出し、個人的な連絡先を教えるよう迫るようになりました。「あの看護師のせいでこんなに困ってるんだ。責任を取らせろ!」と無理難題を押し付ける田中さんの言動に、看護師Aの精神的な負担は増すばかりでした。
ある日、診察室で田中さんがスマートフォンを取り出し、看護師Aの写真を無断で撮影し始めました。看護師Aが「撮影はお控えください」と注意しても、田中さんは「これは俺の権利だ」と言い放ち、写真をSNSに投稿しました。「こんなクリニックで大丈夫なのか?」というコメントと共に、看護師Aの写真はネット上に広まってしまいました。
職場の雰囲気の変化
田中さんの行動はクリニック全体に暗い影を落としました。スタッフの間には不安とストレスが広がり、業務に支障をきたすようになりました。看護師の中には、田中さんの診察日にシフトを変えてもらうよう頼む者も出てきました。待合室にいる患者たちも、田中さんの出現を恐れるようになり、クリニックの評判は徐々に悪化していきました。
院長の佐藤先生もこの事態を重く受け止め、看護師Aに対するサポートを約束しました。「あなたが悪いわけじゃない。私たち全員でこの問題に立ち向かおう」と励ます佐藤先生の言葉に、看護師Aは少しずつ元気を取り戻していきました。
カスハラへの対策
佐藤先生はスタッフ全員を集め、カスハラ対策について話し合う会議を開きました。まずは、クリニックのハラスメントポリシーを見直し、患者への周知を徹底することにしました。「当クリニックでは、患者様のご理解とご協力をお願いしております」と掲示板やパンフレットで明確に伝えることで、予防策を講じることを決めました。
次に、スタッフ全員に対するカスハラ対応のトレーニングを実施しました。外部の専門家を招き、ハラスメントの基本的な知識から具体的な対処法までを学ぶことで、スタッフが自信を持って対応できるようにしました。特に、看護師Aはトレーニングを通じて、自分の対応に対する確信を持つことができました。
さらに、相談窓口を設置し、スタッフがカスハラ被害を受けた際にいつでも相談できる体制を整えました。匿名での相談も受け付けることで、被害を報告しやすい環境を作り出しました。また、深刻な場合には法的措置も検討することを決め、必要に応じて警察や弁護士に相談する手順を明確にしました。
新たな一歩
対策が実施される中で、クリニックの雰囲気は少しずつ改善されていきました。患者に対するポリシーの周知が進み、スタッフ全員が一丸となってカスハラに立ち向かう姿勢が強まりました。田中さんの行動も次第に落ち着きを見せ、看護師Aも再び仕事に対する情熱を取り戻しました。
ある日、看護師Aは田中さんから一通の手紙を受け取りました。「先日は感情的になってしまい申し訳ありませんでした。あなたたちの献身的な仕事に感謝しています」と書かれたその手紙に、看護師Aは心から安堵し、クリニックのスタッフ全員が笑顔を取り戻しました。
結末
クリニックは再び地域住民に信頼される場所となり、看護師Aたちスタッフも自信を持って日々の業務に励むことができるようになりました。カスハラ対策を通じて、クリニックはより強固な組織へと成長し、スタッフ同士の絆も深まりました。
佐藤先生は「これからも私たちは共に歩んでいきます。どんな困難があっても、力を合わせて乗り越えていきましょう」とスタッフ全員に語りかけました。