2024.08.02
クリニック奮闘記
Vol.728 内視鏡クリニックの新規開業物語(マーケティングリサーチ編)
山本医師は長年勤務していた総合病院を退職し、自分の消化器クリニックを開業する決意を固めました。内科医として特に内視鏡検査に専門性を持ち、地域に根ざした医療を提供したいという強い思いがありました。しかし、クリニックを成功させるためには綿密なマーケティングリサーチが不可欠です。そこで、山本医師は信頼するコンサルタントの佐藤氏にリサーチを依頼することにしました。
地域の人口統計調査
ある晴れた午後、山本医師と佐藤氏は市役所に向かいました。地域の人口データを収集するためです。市役所の職員から提供された資料には、地域の人口、年齢分布、性別、家族構成などが詳しく記載されていました。
「この地域は高齢者が多いですね。消化器系の問題も増えているかもしれません。」佐藤氏は資料を読みながらコメントしました。「高齢者向けの内視鏡検査や消化器疾患の治療が求められるかもしれません。」
競合分析
次に、佐藤氏は周囲のクリニックの調査を始めました。競合クリニックの診療科目や診療時間、検査にかかる料金、提供するサービスを調べていきます。そして、一番大事なことは、ベンチマークすべき競合クリニックの実体調査です。地域で内視鏡に力を入れている評判のよいクリニックの患者数の調査です。週の初めと真ん中の午前・午後の患者数をカウントし、土曜日の午前診療の来院患者数の把握も重要です。こうして市場調査を可能な限り綿密に行いました。
アンケート調査
その夜、佐藤氏はアンケート調査を実施することを決意しました。地域住民やターゲット層に対して、医療ニーズや期待するサービス、通院の動機などを把握するためです。
「アンケートにご協力いただけますか?」佐藤氏は地元の商店街を訪れ、アンケートを取りました。住民たちは親切に回答してくれ、その結果、消化器系の健康管理や内視鏡検査のニーズが多いことが分かりました。
インターネット調査
またインターネットを使って情報を集めることにも余念がありません。既存のクリニックに関するオンラインレビューや口コミサイトを分析し、患者の満足度や不満点を把握するためです。
「このクリニックのレビューは高評価だが、待ち時間が長いという声が多いな...」佐藤氏はパソコンの画面を見ながらつぶやきました。また、Google TrendsやSEOツールを使用して、地域の医療関連キーワードの検索ボリュームやトレンドも調査しました。
医療リソース調査
ある日、佐藤氏は地域の病院や薬局を訪ね、医療リソースの調査を行いました。地域の医師会や医療機関とも連携を図り、協力関係を築くことが重要だと考えたからです。
「私たちと協力して、地域の医療をより良くしましょう。」佐藤氏は病院の院長にそう提案しました。病院長に会えないときは、まずは地域連携室を訪問し、関係性を築くことを重視します。医師会や病院との連携は、患者紹介制度や共同イベントなど、クリニックの信頼性を高めるための大きな一歩となるのです。
経済環境の調査
次に、佐藤氏は地域の経済状況も調査しました。地域の収入レベル、生活費、将来的な開発計画などを把握するためです。
「この地域は今後も開発が進む見込みだ。新しい住宅地ができれば、さらに患者が増えるかもしれない。」佐藤氏は地元の経済誌を読みながら、将来的な展望を描きました。
患者ペルソナの作成
調査結果を基に、佐藤氏はターゲットとする患者のペルソナ(想定される患者のイメージ)を作成しました。例えば、高齢者向けには消化器系の健康管理や内視鏡検査、若年層向けには消化器疾患の予防や早期発見のための定期検診などです。
「このペルソナを基に、マーケティング戦略を具体化しましょう。」佐藤氏は自信を持って次のステップに進みました。
SWOT分析
クリニックの開業準備が進む中、佐藤氏はSWOT分析を行いました。自院の強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)を分析し、戦略を立案するのです。
「私たちの強みは治療の専門性と症例件数だが、競合との違いを明確に打ち出さないといけない。」佐藤氏は分析結果をもとに、新たなサービスの提供を計画しました。
予算とリソースの計画
マーケティング予算の設定も重要です。佐藤氏は調査結果を基に、必要なマーケティング予算を設定し、スタッフやツール、時間を効果的に配分しました。
「この予算でどれだけの成果が出せるか...」山本医師は慎重に計画を立てました。
実行計画の策定
最後に、佐藤氏は具体的なマーケティング戦略を立案しました。オンラインとオフラインの広告、プロモーション、イベント、患者への啓蒙活動など、多岐にわたる施策を計画しました。
「SNSを活用して、新しいサービスを広めていきましょう。」佐藤氏はウェブサイトのリニューアルやSNSでの情報発信に力を入れました。
成功への一歩
数ヶ月後、山本医師のクリニックは無事に開業しました。新しいサービスや施策が功を奏し、地域の住民からの評判も上々でした。
「先生、新しいクリニック、すごく良いですね!」患者からの声が山本医師の耳に届くたびに、彼の胸には喜びと達成感が広がりました。
これまではクリニックの新規開業ではマーケティングは重要視されていませんでした。人口に対する医療機関数が充足していなかったからです。ところが、今後の日本は人口減少社会に突入し患者の絶対数が減ることに対して、クリニック数は微増ながら増え続けています。良い経営をするためには、事前準備としてマーケティングリサーチは欠かせないものとなりました。市場動向を把握し、競合クリニックを知ることで、自院の経営戦略に役立ててください。敵を知り、己を知れば百選危うからずです。