2024.08.26
クリニック奮闘記
Vol.729 クリニックの事業承継物語 part1
今回からシリーズ物として『クリニックの事業承継物語』を5日に分けて掲載していきます。実際の出来事を物語風にまとめてみました。参考にして頂けると幸いです。
1日目: 事業承継の始まりと初めての試練
田中医師が営んできた内科クリニックは、地域の住民にとって欠かせない存在であった。数十年にわたる診療を通じて、彼は地域住民の健康を支え、特に在宅診療に力を注いできた。町の高齢者たちは、田中医師の訪問診療を心の支えとしていた。彼の診療スタイルは、採算を度外視してでも患者のために尽くすというもので、患者たちの信頼は絶大だった。
しかし、年齢とともに引退を考え始めた田中医師は、自らの後継者を探す必要に迫られていた。長年築き上げてきたクリニックを適切な人物に引き継いでもらい、地域医療を継続させたいという強い思いがあった。そこで、都市部から地方へ移り住み、地域医療に貢献したいと考えていた佐藤医師に声をかけた。
佐藤医師は、まだ医師としてのキャリアが浅く、特に在宅医療の経験が乏しかったが、田中医師の情熱に感銘を受け、クリニックを引き継ぐ決意を固めた。田中医師は彼に、自らの経営哲学と地域住民との信頼関係の重要性を伝えた上で、医療法人の出資金を譲渡する形で事業承継を進めることにした。税理士の助言を受け、税負担を軽減するための対策も講じられた。
事業承継は順調に進んでいるかに見えたが、引き継ぎが完了した直後、予期せぬ問題が発生する。最初の兆候は、患者の予約が減少したことだった。多くの患者が、田中医師の退任に不安を抱き、クリニックへの通院を控えるようになったのである。
特に高齢者の中には、長年信頼してきた医師が突然いなくなったことで、大きな不安を抱える人が少なくなかった。「田中先生じゃないと安心できない」という声が町中に広がり、患者たちは他の医療機関に足を向けるようになっていた。
また、クリニックのスタッフたちにも動揺が広がっていた。長年田中医師の元で働いてきたベテランスタッフたちは、彼との深い信頼関係のもとで業務を行っており、新しい体制に適応することに対する不安を感じていた。特に看護師たちは、医師との密なコミュニケーションが必要な業務を担っており、新たな医師との関係性を築くことに自信を持てずにいた。
このようにして、佐藤医師の新たな経営は、予想外の困難とともに始まったのだった。