2024.08.27
クリニック奮闘記
Vol.730 クリニックの事業承継物語 part2
2日目: 患者の流出とスタッフの退職
クリニックの事業承継が完了した直後から、佐藤医師は次々と直面する問題に悩まされていた。最も大きな問題は、患者の流出だった。長年通っていた患者たちが次々と他の医療機関に流れていく様子を見て、彼は深いショックを受けた。特に高齢者が多い地域では、信頼関係が何よりも重要であり、田中医師への信頼がいかに強かったかを改めて実感させられた。
「田中先生がいなくなったら、ここに通う意味がない」。そんな言葉を口にする患者も少なくなかった。長年の診療で築かれた信頼は、地域に根を張っていたが、医師が変わることでその根が急速に弱くなってしまったのである。
また、スタッフの退職もクリニックにとって大きな打撃となった。長く勤務していた看護師や事務スタッフの中には、田中医師との連携を重視して働いていた者が多く、彼の退任後にクリニックを去ることを決める者が相次いだ。特に、田中医師の方針に共感していたスタッフたちは、新しい経営体制に適応する自信を持てず、別の道を選ぶことにした。
これにより、クリニックの運営は大きく揺らぎ始めた。ベテランスタッフが抜けたことで、診療業務に支障が出始め、特に患者対応の質が低下する事態に陥った。新たに採用したスタッフの教育も急がれるが、即戦力となる人材はなかなか見つからず、現場は混乱していた。
また、診療報酬も減少し、クリニックの経営はさらに厳しさを増していった。患者の流出とスタッフの退職が重なることで、クリニックの評判は悪化し、予約が減少するという悪循環が生まれていた。佐藤医師は、クリニックを維持するために必死に取り組むものの、事態は改善するどころか悪化の一途をたどっていた。
「このままでは経営が破綻してしまうのではないか」という不安が、佐藤医師の心を支配するようになった。彼は、田中医師の助言を思い出し、地域住民との信頼関係を再構築することの重要性を再認識した。しかし、現実はそれほど簡単ではなく、経営者としての孤独感と不安が彼を襲い続けた。