2024.09.06
クリニック奮闘記
Vol.737 「レセプト業務を考える」(4日目)
レセプト業務は、クリニックにおける収益の根幹を支える重要な役割を果たしている。医療事務スタッフにとって、月末月初のレセプト業務は、まさに息を詰めるような緊張感が漂う時間だ。医療事務の佐々木さんも、その重責を担う一人であり、今日は特に難しい案件が待ち受けていた。
1. 時間に追われる現実
「レセプトの締め切りが近いな...。」佐々木さんは、自分のデスクに座り、パソコンを立ち上げながらつぶやいた。月初めには、患者の診療記録をもとに、保険請求のためのデータ入力とチェックが求められる。間違いがあれば保険審査に通らず、クリニックの収入に直接影響を及ぼすため、慎重さが求められる。
だが、その作業には時間がかかることをよく知っていた。残業は避けたいが、通常業務をこなしながらのレセプト業務は骨の折れる業務の一つになっている。「もっと効率よくできたら...。」そう考えながらも、現実はそれを許してくれなかった。
2. 属人的な業務の危うさ
クリニックでは、佐々木さんがレセプト業務のほとんどを一人で担当している。彼女の経験と知識に依存しているため、ミスがないように日々細心の注意を払っているが、その負担は相当なものだった。
「もし私が何かあったら、どうなるんだろう...?」ふと、そんな不安が胸をよぎる。今のところ、一人でこの業務を引き受けているが、突然休むことになれば、クリニック全体が混乱に陥る可能性がある。
レセプトの作業は非常に複雑で、細かな規則や医療用語の理解が必要だ。誰でもすぐに対応できる業務ではない。そのため、自分の業務が属人的になっていることに危機感を抱いていた。
3. 退職者が残す穴
ある日、クリニックに長く勤めていた先輩事務員が退職を決意した。彼女もレセプト業務に詳しいスタッフの一人であり、彼女が退職することで、佐々木さんへの負担が一層増すことが予想された。
「これからは佐々木さんが全面的にレセプトを担当してくれることになるわね。」退職する先輩は、そう告げた。
「でも、そんな...私一人で全部をカバーするのは無理です。」佐々木さんは焦りを隠せなかった。確かに彼女はレセプト業務に精通していたが、一人でその全てを担うことのプレッシャーは計り知れなかった。
4. 属人的な業務をチームで支える
「どうしたら、もっと効率よく、そしてチームでこの業務をこなせるんだろう...?」悩んだ末、院長に相談することにした。
「院長先生、レセプト業務が私一人に偏っている現状を改善したいのですが...。」属人的な業務の危険性と、チームでの対応の必要性を訴えた。
院長はその問題を真摯に受け止め、スタッフ全員が基本的なレセプト業務を理解し、協力できる体制を整えることを決意した。「これからは、レセプトの基礎を全員で学び、共有する機会を作りましょう。」院長の言葉に少しホッとした。
5. 残業の壁と効率化の挑戦
その後、クリニックではレセプト業務の効率化に向けた取り組みが始まった。佐々木さんは他のスタッフに業務を教える役割を担い、少しずつ業務の分担を進めていった。
だが、現実は厳しい。業務の引き継ぎには時間がかかり、完全に効率化するにはまだ遠い道のりがあった。残業も減ることなく続いたが、それでもスタッフ全員が協力して業務をこなすことで、少しずつ改善の兆しが見えてきた。
6. 新たな始まりと希望
月初の10日を迎える頃、ようやくレセプト業務が完了した。佐々木さんは疲労困憊しながらも、どこか充実感を感じていた。チームで協力して困難を乗り越えることの大切さを、改めて実感したのだ。
「これからも、みんなで支え合いながら頑張ろう。」美咲は心の中でそう決意し、デスクを片付けた。クリニックのレセプト業務は、まだまだ課題が多いが、それでも少しずつ前進している。そして、それはクリニックにとっても、新たな始まりを意味していた。
医療事務という仕事は医療業界にあって、日陰の仕事になっています。医療者の医療行為を金銭に置き換える重要な仕事であり、またクリニック経営の良し悪しはレセプトによるところが大きいにも関わらず、その評価が低いことは嘆かわしく思うところでもあります。評価する側にも問題がありますが、働く側にも問題があります。社会に評価される働きかたとは?そんな切り口で問題提起をしてみたいと思います。