2025.04.23
クリニック奮闘記
Vol.886 クリニックにおけるスタッフの人材確保
2024年度の診療報酬改定により、医療提供体制を支える人員配置基準の見直しが行われた。この見直しは主に病院を対象としているが、医療人材の需給バランスという観点から見ると、その影響はクリニックにも波及する。また、地方における人口減少と高齢化の進行は、医療従事者の確保をますます困難にしている。本稿では、①病院への人員拡充要求がクリニックに与える影響、②地方におけるクリニックの人材確保問題とその解決策、の2点に焦点を当てまとめてみる。
① 診療報酬改定による病院の人員配置基準見直しとクリニックへの影響
診療報酬改定は、医療提供体制の質と安全性の確保を目的に、病院に対して人員配置の強化を求める内容となっている。たとえば、急性期病院では看護配置の基準が厳格化され、医師や看護師、リハビリ職、薬剤師など、多職種の常勤配置が求められるようになった。
このような配置基準の強化は、病院が積極的に人材採用を行うことを意味し、地域内の限られた医療人材の奪い合いを加速させる。特に、医師や看護師を含む有資格者の採用は、相対的に給与水準の低いクリニックにとってますます困難になる。
また、病院勤務を希望する医療職は、夜勤手当やスキルアップの機会、福利厚生の充実などを求める傾向があり、労働環境の整備が遅れているクリニックには応募が集まりにくい現状がある。加えて、都市部の大学病院や中核病院が人材募集を強化することで、地方や郊外のクリニックには人材がさらに流れにくくなるという構造的な課題も浮き彫りになっている。
このように診療報酬改定は直接的には病院を対象としたものであるが、地域医療という広い視点では、クリニックの人材確保に負の影響を与えているといえる。
② 地方における医療従事者の確保問題とクリニックの現状
地方では、医療人材の確保が深刻な課題となっている。特に過疎地では、そもそも医療職を目指す若者の数が少なく、都市部からの人材流入も期待しにくい。このような地域においてクリニックを運営するには、以下のような問題が存在する。
第一に、給与や待遇の面で病院や都市部の医療機関と競争することが難しいという経済的制約がある。限られた診療報酬の中で運営するクリニックでは、スタッフの処遇改善が容易ではない。また、医療事務や看護助手など非資格職の採用においても、パートタイム人材の確保すら困難なケースもある。
第二に、生活環境の問題がある。医療従事者が移住する場合、その家族の生活基盤(教育機関、買い物、交通インフラなど)も考慮されるが、地方ではこれらの条件が十分に整っていないことが多い。さらに、医療職に対する地域住民からの過度な期待やプレッシャーも、職場定着を妨げる一因となる。
第三に、教育・研修環境の乏しさがある。地方のクリニックでは、医療従事者がスキルを継続的に学べる機会が限られており、これが人材の育成や定着の妨げとなっている。スキルアップを重視する若手医療従事者は都市部に流れやすい傾向がある。
これらの課題に対して、いくつかの解決の糸口が模索されている。
一つは、地域医療に特化した人材育成プログラムの推進である。地域枠の医学生制度や看護師の奨学金制度を活用し、一定期間地方での勤務を義務付けるなどの取り組みが行われている。これは長期的な視点ではあるが、持続可能な人材確保策として期待される。
また、オンライン診療やオンライン研修を活用し、地方でも都市部と同様の教育機会を提供することで、スキルアップを支援する体制づくりも有効である。さらに、働き方改革として、週休3日制度や時短勤務など柔軟な就労体系を導入し、子育て中の人材やシニア世代の活用を進めることも一案だ。
さらに、地域包括ケアの考え方を取り入れ、介護・福祉・医療を横断的に連携させた人材活用を進めることで、医療現場の負担を分散し、医療従事者の働きやすさを向上させる工夫も求められている。
まとめ
診療報酬改定による病院の人員拡充は、医療人材の偏在をさらに顕在化させ、結果としてクリニックの人材確保を難しくしている。一方で、地方におけるクリニックは、経済的・地理的・社会的制約の中で人材確保に苦戦している。だが、地域に根ざした人材育成制度の活用、ICTを用いた教育体制の整備、働き方の多様化といった取り組みによって、その課題の一部は解決可能である。
今後、クリニックが持続可能な地域医療の担い手であり続けるためには、単に人材を採用するという視点だけでなく、「人を育て、活かす」視点での経営戦略が求められている。