Vol.894 広告規制と集患対策の難しさ

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クリニック奮闘記

2025.04.27

クリニック奮闘記

Vol.894 広告規制と集患対策の難しさ

クリニック経営において、「集患」は生命線とも言える。開業当初だけでなく、経営が軌道に乗った後も、一定の患者数を維持・増加させる努力は欠かせない。しかし、医療業界には特有の「広告規制」が存在し、他業種のように自由な宣伝活動ができない。この制約の中で、いかに効果的な集患施策を講じるかは、クリニック経営者にとって常に頭を悩ませる問題である。

本稿では、まずクリニックに課せられている広告規制の内容を整理し、次にその規制がもたらす集患対策上の難しさについて考察する。そして最後に、現状で可能な対策についても触れていきたい。

医療広告規制の概要

医療機関の広告に関しては、「医療法」及び「医療広告ガイドライン」によって厳格な規制が敷かれている。大まかに言えば、医療機関の広告は「虚偽広告の禁止」「誇大広告の禁止」「比較広告の禁止」「誘引性のある広告の禁止」などが定められている。

具体的には、以下のような表現が禁止されている。

  • 「絶対に治ります」「必ず効果が出ます」といった確実性を保証する表現

  • 他院と比較して自院を優位に見せる表現(例:「地域No.1」「最高の治療」)

  • 患者の体験談の掲載(原則禁止)

  • 治療前後の写真掲載(一定条件を満たさない限り禁止)

  • 芸能人・著名人による推薦

さらに、医療機関のウェブサイトも「広告」とみなされる場合があり、掲載内容には注意が必要だ。SNS(Instagram、X、TikTokなど)も広告規制の対象となり得るため、拡散力がある反面、リスクも伴う。

「限定解除」の項目

例外的に、患者の選択に資する情報提供という観点から、一定の条件下で許される情報もある(これを「限定解除」と呼ぶ)。例えば以下のような情報は適切に掲載できる。

  • 医師の略歴・資格

  • 診療時間・予約方法

  • 保険診療か自由診療かの別

  • 費用(自由診療の場合)

ただし、これらも事実に基づく情報に限られ、誤解を招く表現は認められない。

集患対策における難しさ

このような厳格な広告規制の下、クリニックが患者に自らの存在を知らせ、来院を促すには大きな制約がある。具体的な難しさをいくつか挙げてみよう。

1. 他院との差別化が困難

本来、マーケティングにおいては「他社との差別化」が重要だ。しかし医療広告では「比較優位」をうたうことができないため、たとえば「最新の治療機器を導入」「経験豊富な医師が担当」といった表現も注意が必要になる。

結果的に、どのクリニックの情報も似たり寄ったりになり、患者側から見ても違いが分かりづらい。これにより、単純に立地や口コミに頼る傾向が強まり、経営努力だけでは十分な集患が難しくなる。

2. 口コミや体験談が使えない

一般消費者に強い影響を与える「口コミ」「体験談」の活用も厳しく制限されている。たとえば、患者からの感謝の声をホームページに載せたり、ビフォーアフターの写真を並べたりすることは、原則NGだ。これにより、クリニック側は「利用者の声」を直接的に訴求することが難しくなっている。

SNS運用においても、患者の個別事例を紹介する場合には慎重な配慮が求められ、許可の取得や表現の工夫が必要だ。

3. ネガティブ情報への対応が難しい

Googleレビューやポータルサイトなど、第三者が書き込む口コミは広告規制の対象外だ。しかし一方で、誹謗中傷や悪意ある口コミが投稿された場合、クリニック側は積極的に反論したり削除を求めたりするのが難しい。過度な対応は逆効果となり、さらに炎上するリスクを伴うため、耐え難い批判にも耐えざるを得ない場面が多い。

4. 自由診療分野の集患が特に難しい

美容医療や自由診療領域では、保険診療以上にマーケティングが重要になるが、自由診療こそ広告規制の監視が強い。特に、美容皮膚科・美容外科領域では、施術前後の写真掲載や、効果を過剰に謳う広告が厳しく取り締まられるようになっている。

競争が激しい分野でありながら、慎重な情報発信しかできないため、戦略設計の難易度は非常に高い。

現実的な集患対策

このような背景を踏まえたうえで、現実的に取り得る集患対策を考えてみたい。

1. 地域密着型のブランディング

大々的な広告が打てない以上、地域住民との信頼関係構築が王道となる。例えば、

  • 地域の健康イベントへの参加・協賛

  • 小学校や介護施設などへの健康講座の実施

  • 地元メディア(フリーペーパーやケーブルテレビ)への情報提供

といった活動を通じて、「顔の見えるクリニック」として認知を高めていく方法がある。

2. ウェブサイトの充実

ホームページは、今やクリニック選びの第一関門である。広告規制を守りながらも、

  • 医師やスタッフの人柄が伝わるプロフィール

  • 診療方針や理念を丁寧に説明

  • 診療内容について患者目線でわかりやすく説明

といった工夫を凝らし、安心感を与えるサイト作りが重要だ。特にスマホ対応(モバイルフレンドリー)は必須である。

3. SEO対策とMEO対策

検索エンジン(Google)での検索結果において、自院のホームページが上位に表示されるよう工夫する「SEO(Search Engine Optimization)」は効果的だ。また、Googleマップ上での評価を高める「MEO(Map Engine Optimization)」対策も、地元住民の検索行動に直結する。

たとえば、

  • クリニック名+診療科目+地域名(例:「吹田市 皮膚科 クリニック」)を意識したキーワード設計

  • Googleビジネスプロフィールの充実

  • 患者からの自然なレビュー獲得(口コミ依頼は慎重に)

といった取り組みが求められる。

4. 内部満足度の向上

結局、患者の口コミは自然発生的にしか生まれない以上、最も重要なのは「患者満足度」である。接遇、診療時間の適正管理、待ち時間の短縮、説明のわかりやすさなど、内部オペレーションの改善を地道に積み重ねることで、リピーターを増やし、紹介を生むことができる。

スタッフ教育や院内オペレーションの見直しも、集患対策の一環と捉えるべきだろう。

まとめ

クリニック経営における広告規制は、厳格かつ独特なルールが課されているため、他業種のマーケティング手法をそのまま流用することはできない。その制約の中で、集患対策を講じるには、短期的な効果を狙うのではなく、中長期的な信頼獲得に主眼を置く姿勢が求められる。

地道で目に見えにくい努力が多く、結果が出るまでに時間もかかる。しかし、それこそが医療機関にふさわしい集患のあり方であり、地域に根付いたクリニックへと成長するための唯一の道なのである。