2025.05.19
クリニック奮闘記
Vol.902 患者は増えているのに利益が残らない?整形外科クリニック経営の落とし穴と突破口
大阪の郊外、住宅街の一角にある「ひかり整形外科クリニック」。
開業から10年、PT・OTあわせて7名体制、MRIも導入済み。1日あたりの来院患者は100名を超え、地域でも評判のクリニックだった。
しかし、院長の山田先生の頭を悩ませるのは、「収益の伸び悩み」と「人件費の増大」。患者数は右肩上がりにもかかわらず、毎月の帳簿には赤字スレスレの数字が並んでいた。
受付とシュライバーが「詰まりポイント」だった
まず浮かび上がったのは、受付とシュライバー業務のボトルネック。
受付では2人のスタッフが、来院者対応・電話応対・会計・予約調整・紹介状の管理まで抱え込み、時間帯によっては待ち時間が20分以上に。
シュライバー(診察補助)の業務も属人的で、診察室ごとの情報連携にムラがあった。
レセプトチェックも後手に回り、毎月の返戻・査定は平均15件と、地域平均を上回っていた。
✅【解決策:受付・シュライバー業務の再構築】
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受付業務は「事務」と「対応」に分離し、事務的作業はバックヤード化
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シュライバー業務は電子カルテ入力補助に特化させ、回診補助は看護師と分担
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レセプトチェックは当社(レセプト請求代行)の外注導入により、返戻は月2件に激減、業務負担も2割減少
「PT・OTは経営のことなんて考えない」...本当にそうか?
山田院長のもう一つの悩み、それは**「リハビリ部門のスタッフに経営的視点がない」**ということ。
日々のリハビリ業務に追われ、単位数や加算の意識が薄い。とくに若手PTの中には「経営なんて上の人が考えること」と無関心なスタッフもいた。
✅【動機付け:PT・OTにも"数字を見せる"文化を】
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月次ミーティングで**「単位あたりの稼働率」や「実施率」を開示**
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スタッフごとに業務日報と加算取得実績のフィードバックを実施
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成果に応じたインセンティブ制度を導入し、目標意識と自主性が向上
「リハビリ回転率」だけが経営改善ではない
よく言われる「いかに多くのリハビリ患者を診るか」が経営の肝。
しかし実際には、以下のようなオペレーション改革でも増収は可能だった:
✅【リハビリ以外の増収オペレーション例】
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「画像診断体制の強化」:MRI撮影予約の最適化により、1日あたり検査件数15→22件へ
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「物理療法の活用」:電気治療・温熱療法を正確に算定。未請求分が年間120万円分発覚
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「訪問リハビリ」の新設:ケアマネ連携により、訪問単位が月400→620単位に拡大
多職種連携の難しさと、労務管理の盲点
整形外科クリニックでは、PT、OT、医療事務、放射線技師、介護士、ケアマネなど、多くの職種が関わる。
ある日、院長のもとにクレームが入った。
「PTさんに言ったのに、事務から返事がない」
「介助が必要な患者さんに対応できていない」
情報伝達のすれ違いから、患者満足度が低下しつつあった。
✅【労務リスクと対策】
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「多職種ミーティング」を週1回開催し、チーム共有と責任範囲の明確化
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勤務表をクラウド管理し、早退・欠勤の連絡漏れや人員配置ミスを防止
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ハラスメント相談窓口と第三者労務相談(当社が提供)を設置し、離職率を4割削減
人件費比率をどう抑える?数値目標と現実解
開業当初は30%未満だった人件費比率は、現在42%超え。
収入が伸び悩むなか、ボーナスを削るか、スタッフを減らすか、決断を迫られていた。
✅【人件費適正化のための数値目標と実施策】
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目標人件費比率:35%以内
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オペレーション変更により残業代を月12万円削減
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外注(レセプト請求代行)により、事務人件費を年間240万円圧縮
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インセンティブ制度により、生産性向上を実現しつつモチベーション維持
最後に:経営を「仕組み」で支える時代へ
山田院長が導き出した答えは、「人に頼る経営から、仕組みによる運営へ」という転換だった。
レセプト業務の外注、スタッフ動機付け、業務分担の再設計...。
結果として、年間利益は450万円改善。
リハビリも外来も、患者満足度も落とさずに、次の10年に向けた土台が築かれた。