2025.05.19
クリニック奮闘記
Vol.903 クリニックのDXが進まない理由とその打開策 ~現場で本当に使えるIT化とは~
近年、「クリニックのDX(デジタルトランスフォーメーション)」が医療業界で注目を集めています。医療ITの導入は業務効率の向上だけでなく、スタッフの負担軽減、レセプト業務の効率化、患者サービスの向上にも寄与するはず――。
しかし、当社が支援する複数のクライアントクリニックでは、「ソフトを入れたのに定着しない」「現場がついてこない」「結局紙に戻った」といった声が後を絶ちません。
今回は、クリニックを含む中小規模の医療機関がDX推進において直面する課題と、実践的な解決策について、経営コンサルティングおよびレセプト請求代行の視点から解説します。
課題①:スタッフのITリテラシーの低さが、DXの最大の壁
「パソコンに触るのが怖い」「クリックってどれ?」
多くの医療スタッフ、とくに40代~60代のベテランスタッフの中には、PC操作に対して強い苦手意識を持っている方が少なくありません。新しいソフトを導入しても、「覚えられない」「怖い」という感情が、実質的なDXの足かせになります。
解決策:
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操作マニュアルは「動画+紙+実地研修」で多層化
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「まずはレセコン入力だけ」「受付処理だけ」など、小さな機能から使わせる
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スキル別に操作レベルを設定し、達成度に応じて小さな報酬(図書カードなど)を出す
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LINEやスマホアプリで操作指導するなど、日常に近いツールで研修
課題②:パート主体の組織では、業務の申し送りがDX導入の障害に
短時間勤務のパートスタッフが主力のクリニックでは、ソフトの導入情報や運用ルールがうまく共有されないことが多く見られます。
解決策:
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「マニュアルアプリ」や「Googleスプレッドシート」で業務申し送りを一元管理
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「申し送りノート」から「LINEワークス」や「Slack」に切り替え、リアルタイムに情報共有
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週1回の「オンライン朝礼」を取り入れ、システムの使い方を1項目だけ共有
クリニックDXの成否は「定着率」で決まります。情報共有の工夫がそのカギです。
課題③:ソフトは入れたが活用されず、結局"宝の持ち腐れ"
「高額な医療ソフトを導入したが、誰も使っていない」という事例は枚挙にいとまがありません。
解決策:
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導入後1ヶ月以内に「使いこなせた機能」「使えなかった機能」の棚卸しを実施
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「どこでつまずいたのか」をスタッフにアンケート(Googleフォームなどで簡単に)
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業務フローと照合し、「ソフトが使いにくい」ではなく「使い方が合っていない」を分析
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コンサルタントやベンダーによる「ミニレビュー」を定期的に依頼
課題④:ベンダー研修は高額...でも依頼すべき?
ベンダーの操作講習会は、「1回●万円」「スタッフ人数によって追加課金あり」と高額になりがち。費用対効果に疑問を感じ、講義を断念するケースも多いです。
解決策:
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ベンダー講習を受ける場合は「操作だけでなく業務フロー見直しも含めて」依頼
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「3人まで」「60分以内」など、研修範囲を事前に設定し、コストを抑える
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自社で「OJT指導者(スーパーユーザー)」を1名育成しておくことで、2回目以降の研修費を削減
コンサルティング会社が介入することで、「何を外注し、何を内製化すべきか」の判断がしやすくなります。
課題⑤:レセプトチェックソフトを導入したが、カスタマイズが進まず機能を使いこなせていない
自動チェック機能を持つレセプトソフトを導入しても、結局「手作業チェックに戻っている」という声は多くあります。
解決策:
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「何をチェックさせたいか」を明確にし、ベンダーにフィードバック
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カスタマイズにかかる費用対効果を明確化(たとえば再請求金額が月●円減少するなど)
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当社のような「レセプト請求代行会社」が運用に入り、ベンダーとの間を取り持つと導入効果が最大化されます
経営視点から考える、クリニックDX成功の3ステップ
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目的の明確化:「なぜDXをするのか?」→人手不足解消/時間短縮/収益性向上
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運用者の教育強化:「どう定着させるのか?」→IT教育×業務分解×マニュアル整備
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外部支援の活用:「どこを任せるか?」→レセプト代行×コンサル×ベンダー選定
まとめ:DXは「技術」より「定着」がカギ
クリニックのDXは、「高機能なソフト導入」がゴールではなく、「現場が無理なく使い続けられる」ことが成功の定義です。