2025.06.24
クリニック奮闘記
Vol.931 精神科クリニックにおける長時間診療と管理料算定の問題
精神科医療では、医師との対話時間が比較的長くなる傾向があり、診療内容が非定型であることから、診療録やレセプトの記載内容に対して特に厳格な管理が求められています。本事例では、長時間の再診・初診を行う精神科クリニックが、厚生局から「診療実態とレセプト記載の乖離」「地域包括診療加算の不適切算定」などを理由に個別指導を受けた実例を紹介します。
背景と経緯
当該クリニックは都市部にある開業3年目の精神科・心療内科で、うつ病・不安障害・ADHDなどの治療を中心に行っていました。初診には40~60分、再診でも20分以上かけることを売りにしており、診療報酬の主な収入源は精神科初診料、再診料、特定疾患療養管理料、および精神科地域包括診療加算でした。
しかし、毎月のレセプトにおいて地域包括診療加算の算定件数が極端に多く、他院に比べて異常値を示していたこと、ならびに診療録の記載が時間と内容に見合っていないことから、厚生局による新規個別指導の対象とされました。
指摘された主な内容
1. 精神科地域包括診療加算の誤算定
当該加算は、精神疾患を有する患者に対して、一定の管理体制のもとで継続的な診療を提供し、かつ指導・相談体制を整備していることが要件となります。
本クリニックでは、
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地域連携医療機関との連携体制が未整備
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24時間対応の説明記録なし
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計画書の作成・署名取得が未実施 といった問題点があり、施設基準との乖離が明確になりました。
2. 長時間診療と記録内容の不整合
診療録には「傾聴30分」「相談20分」などの記載があるにも関わらず、具体的な会話内容、助言、処方意図が簡潔すぎるものや、同一文言のテンプレート使用が多数確認されました。これにより、実際の診療が適切に行われたかどうかの裏付けが取れないと判断されました。
3. 管理料の算定根拠不備
特定疾患療養管理料や生活習慣病管理料が算定されていたが、患者の状態や指導内容に関する記録が簡略的で、病状の変化や個別性が乏しい内容が多数見られました。
改善策
1. 記録テンプレートの見直しと詳細化
SOAP形式を基にした診療録テンプレートを再構成し、医師が具体的に記録を残せるよう支援。相談内容・治療方針・指導内容を詳細に残すことで、レセプトとの整合性を図る運用を開始しました。
2. 加算要件の再確認と届出の見直し
地域包括診療加算に関しては、施設基準に沿った届出内容の見直しと、体制整備(連携先医療機関との文書協定、24時間連絡体制の整備、診療計画書の作成)を実施しました。
3. 外部点検体制の導入
弊社(株式会社メディカルタクトの)「レセプト請求代行」サービスを導入し、特に管理料や加算の算定が適切かどうかを毎月チェック。記録と算定内容の整合性を重視した点検を行うことで、返戻・査定を最小限に抑える体制を構築しました。
成果と展望
個別指導から半年後には、返戻件数は月30件から月3件以下へと改善し職員の診療録記載意識も大きく変化しました。
今後は診療報酬改定への対応を強化し、レセプト請求に関する勉強会や事例共有を通じて、職員全体のスキル向上と情報共有を行っていく予定です。
まとめ
精神科における「時間をかけた診療」は重要な価値である一方で、それが正しく診療録に反映され、レセプトに整合性を持って請求されなければ、厚生局から不適切請求と見なされるリスクがあります。
「レセプト請求代行」「レセプト外注」の仕組みを活用し、第三者の視点から記録と請求の適正性をチェックする体制づくりが、大きな意味を成すと考えています。
株式会社メディカルタクトでは、精神科・心療内科を含む幅広い診療科において、レセプト点検体制の構築と新規指導対応の支援を提供しています。レセプトで困っているクリニックの皆様は、ぜひご相談ください。