2025.06.30
クリニック奮闘記
Vol.933 人口減少社会とクリニック経営の構造転換
■はじめに 日本は世界でも有数の超高齢社会であり、同時に急速な人口減少局面に突入しています。総務省の人口動態調査によると、2024年時点での日本の総人口は1億2,400万人を下回り、2040年には1億人を切るとの見通しも示されています。この社会構造の大転換は、地域医療の根幹を担うクリニック経営に対しても深刻な影響を及ぼします。本レポートでは、人口減少がもたらす患者数と人材採用への影響、そしてこれに対する経営戦略上の対応について論じます。
■患者数の減少とその影響 人口の減少はすなわち、医療サービスの対象人口の縮小を意味します。特に地方圏においては、診療圏人口の減少がダイレクトに来院患者数の減少に繋がります。高齢者の医療需要がある程度は残るものの、長期的には確実に需要が逓減していくことを前提に、売上の拡大を志向する戦略は見直しを迫られます。
■適正規模への事業転換 従来は拡大路線により、分院展開や複数医師体制、高度医療機器の導入などによる差別化が図られてきました。しかし、今後はむしろ事業規模を絞り、必要最小限の人的資源と設備で運営可能な体制に転換することが現実的な対応策となります。特に、経営資源を集中させることで無駄なコストを省き、利益率を高める"スリム型クリニック"が今後の主流となる可能性があります。
■人材採用難とその対応 人口減少は労働力人口の減少でもあります。医療事務、看護師、臨床検査技師など、あらゆる職種において採用が困難になることが予想され、給与の高騰や福利厚生の充実が必要となります。その一方で、地方圏ではそもそも労働力となる人材が存在しないという根本的な問題もあり、採用戦略だけでは限界があります。
■今後の経営戦略の方向性 こうした現状を踏まえると、クリニック経営は以下の方向性へと転換が必要です。
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拡大から最適化への転換(スモール・イズ・スマート)
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人的資源からデジタル資源へのシフト(DXの推進)
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地域連携による機能分担と効率化
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自院で全てを担うのではなく、"選ばれる役割"への特化
■まとめ 人口減少という不可逆的な社会変化に直面する今、クリニック経営は従来の常識を捨て去り、新たな戦略思考に基づく構造転換が不可避です。売上至上主義ではなく、利益率重視、持続可能性重視、そして地域に根ざした機能重視の経営モデルへと舵を切ることが求められています。