Vol.970 診療時間・診療効率の最適化(Ⅱ)

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クリニック奮闘記

2025.08.18

クリニック奮闘記

Vol.970 診療時間・診療効率の最適化(Ⅱ)

診療単価を改善しても、経営が安定するとは限りません。
なぜなら、収益は「単価 × 患者数 × 効率」で成り立っているからです。

患者数が増えても診療効率が悪ければ、診療時間が膨らみ、スタッフの残業が増え、結果的に人件費や光熱費といった固定費が重くのしかかってきます。実際に私がご相談を受けるクリニックでも、「患者数は十分にいるのに、なぜか利益が残らない」というケースが少なくありません。

ある小児科クリニックのケース

大阪郊外にある小児科クリニックでは、地域の子育て世帯から厚い信頼を得ており、常に待合室は親子でいっぱいでした。しかし、院長先生の悩みは「毎日の診療が長時間に及び、スタッフも疲弊しているのに、経営的にはほとんど余裕がない」というもの。

レセプトを確認すると単価自体は平均的。しかし診療時間を分析してみると、1人あたりの診察に想定以上の時間を費やしており、患者数を増やしても効率が悪いため収益が頭打ちになっていたのです。

特に問題となっていたのが、問診と説明の時間でした。初診の親御さんに対してはどうしても説明が長くなり、診療フローが崩れてしまっていたのです。

診療フローの整備で効率を上げる

そこで導入したのが「診療前問診シート」と「説明用リーフレット」です。
看護師があらかじめ問診内容を整理し、医師は診断に必要なポイントに集中できるようにしました。さらに、よくある質問に関してはリーフレットを配布し、説明時間を標準化しました。

この工夫だけで診察1件あたりの時間が平均3分短縮され、1日の診療効率が大幅に改善しました。スタッフの残業も減り、結果として固定費削減につながったのです。

電子カルテとスタッフの役割分担

診療効率を考えるうえで欠かせないのが、電子カルテの活用です。
紙カルテに比べ入力作業は迅速ですが、入力方法が属人的であれば逆に効率が落ちることもあります。ここでは「医師が入力すべき情報」「看護師や事務が代行できる入力」の切り分けが重要です。

実際に、ある整形外科クリニックでは「医師が入力していた部分の一部を看護師が事前に準備する」仕組みを導入しました。その結果、診察中の入力作業が軽減され、診療の回転率が改善。患者さんに向き合う時間を確保しながら、診療効率を向上させることができました。

効率化がもたらす副次的な効果

診療効率の改善は、単なる「時間の短縮」にとどまりません。
効率化によってスタッフの残業が減り、働き方にゆとりが生まれると、スタッフ満足度が上がります。また、患者さんにとっても待ち時間の短縮につながり、満足度の向上が期待できます。

このように、診療時間・診療効率の最適化は、経営と医療の両立を実現する大切な要素なのです。

患者数リスクの分散(繁忙期と閑散期のコントロール)

診療単価を上げ、診療効率を最適化しても、最後に大きな壁として立ちはだかるのが「患者数の変動リスク」です。

多くのクリニックでは、季節や時期によって患者数が大きく変動します。内科クリニックなら冬の感染症シーズンに患者数が急増し、逆に春や夏は閑散とすることが多い。整形外科でも、部活動やスポーツの大会シーズンには患者が増える一方、長期休暇や天候の影響で来院数が落ち込む時期があります。

冬場は大繁盛、夏は赤字 ― 内科クリニックの悩み

ある都市部の内視鏡専門クリニックの院長先生はこうおっしゃっていました。

「冬は予約が取れないくらい忙しいのに、夏になると検査のキャンセルが相次ぎ、赤字ギリギリになる。経営の波が激しすぎて精神的にも不安定になる。」

まさに患者数リスクの典型例です。

このクリニックでは冬場にインフルエンザや風邪症状の患者が殺到するため、その時期に大きな収益を上げていました。しかし夏場は健診需要や内視鏡検査が中心となるため、キャンセルが出るとそのまま大きな損失につながっていたのです。

リスク分散の第一歩は「診療メニューの幅」

この問題に取り組むため、私たちが提案したのは 診療メニューの多様化 でした。
具体的には、

  • 夏場に合わせて「胃・大腸内視鏡のセット検査キャンペーン」を企画

  • 会社健診との連携を強化し、法人契約を獲得

  • 時期に関係なく需要のある慢性疾患(生活習慣病)の定期管理を強化

こうした施策により、繁忙期・閑散期の患者数の差が緩和され、経営の安定化が実現しました。

整形外科における季節変動対策

整形外科の場合も同様に、外傷やスポーツ障害といった「波のある疾患」に依存すると、閑散期には患者数が大きく減ってしまいます。

ある整形外科クリニックでは、夏場に患者が減るのが毎年の課題でした。そこで導入したのが リハビリ特化型の通院プログラム です。高齢者の関節リハビリや運動器リハを強化することで、年間を通じて安定した患者数を確保できるようになりました。

リハビリは保険点数が安定しており、また通院頻度も高いため、閑散期の底支えとして非常に有効です。

レセプト請求にも直結する「安定性」

患者数の変動リスクは、そのままレセプト請求の不安定さにもつながります。毎月の請求額が大きく上下すると、資金繰りの見通しも立ちにくくなります。

一方で、閑散期をカバーする慢性疾患やリハビリといった診療メニューを整えると、毎月のレセプト請求額が安定し、経営予測も立てやすくなります。これこそが、長期的にクリニックを守るための「診療リスク分散」の効果なのです。

経営者に求められる視点

院長先生や副院長先生にとって大切なのは、「繁忙期に患者が来るかどうか」ではなく、閑散期にも安定した収益を確保できる仕組みを持つことです。

もちろん、診療効率や単価の改善も重要ですが、経営の安定には「リスク分散」が欠かせません。患者数リスクを制御できるかどうかが、数年後のクリニック経営を大きく左右します。