2025.08.18
クリニック奮闘記
Vol.972 固定費の増加に備えた経営戦略
近年、クリニック経営において最も大きなプレッシャーのひとつが「固定費の上昇」です。
人件費・家賃・材料費・光熱費――これらは診療行為にかかわらず毎月必ず支払わなければならない費用であり、利益を圧迫する大きな要因となります。
人件費の高騰が最大のリスク
特に大きな影響を及ぼすのが「人件費」です。
看護師・医療事務・リハビリスタッフの採用難は年々深刻化しており、給与水準は上昇傾向にあります。
ある皮膚科クリニックの院長先生はこう話されていました。
「数年前までは、看護師さんを時給1,800円で雇えたのに、今では2,200円でも応募が来ない。スタッフの給与が上がるのは当然のことですが、経営的には固定費の増加にどう耐えるかが課題になっています。」
人件費は一度引き上げると下げにくく、経営に重くのしかかります。
家賃・光熱費・材料費の上昇
加えて、都市部のテナントクリニックでは「家賃の値上げ要請」や「更新時の条件変更」も大きなリスクです。
また、電気代やガス代などの光熱費は、コロナ禍以降大幅に上昇しており、院内の空調を整えざるを得ないクリニックにとっては負担が大きくなっています。
さらに、医療材料や衛生用品の価格も上がり続けています。グローブやマスクといった消耗品ですら数年前の1.5倍のコストがかかることも珍しくありません。
固定費増加に耐える「収益構造」づくり
固定費の増加に真正面から耐えるには、以下の3つの戦略が有効です。
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売上を安定させる仕組み
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慢性疾患管理、リハビリ、自由診療など、季節や外部要因に左右されにくい収益源を確保する。
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業務の効率化による人件費抑制
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電子カルテや予約システムを活用し、少人数でも回る体制を整える。
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事務作業はアウトソーシングを活用し、院内スタッフをコア業務に集中させる。
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資金繰りの見える化
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月次で損益とキャッシュフローを確認し、固定費増加がどの程度利益を圧迫しているかを把握する。
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余剰資金があるうちに将来の固定費増加に備える。
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ケーススタディ:固定費を吸収できたクリニック
大阪郊外の整形外科クリニックでは、コロナ後に人件費と光熱費が大幅に上昇し、利益が圧迫されていました。
そこで院長先生が取り組んだのが、
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リハビリ助手を増やすことで、看護師が本来業務に集中できる体制に変更
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予約管理を徹底し、患者数の平準化を実現
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空き時間に自費リハビリプログラムを導入し、自由診療の新しい収益源を確保
この結果、固定費は以前より増えているにもかかわらず、売上が安定し、利益率を改善することに成功しました。
経営者に必要なのは「先手の備え」
固定費は、後から削減するのは非常に難しい費用です。
だからこそ、経営者には「上昇することを前提に備える」という発想が求められます。
・スタッフの給与水準を数年後にどう設定するか
・家賃や光熱費が今後どのくらい増えるか
・それに対応できるだけの収益構造があるか
これらをシミュレーションし、早めに対策を打つことが、クリニック経営の安定につながります。
まとめ
今週は、ここまで4つのテーマを取り上げてきました。
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診療単価の向上
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診療時間・診療効率の最適化
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患者数リスクの分散
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固定費の増加に備えた経営戦略
いずれもクリニック経営における収益改善の要点ですが、共通するキーワードは「安定性」です。
診療報酬改定や社会情勢の変化は避けられません。その中で、波に翻弄されるのではなく、先手を打って安定的な経営基盤をつくること。これこそが、地域に長く必要とされるクリニック経営の本質といえるでしょう。