2025.08.25
クリニック奮闘記
Vol.973 「クリニックの人的リソースとは?内部・外部人材の役割と活用課題を総括」
はじめに
クリニック経営において、人的リソースは最も重要な資源のひとつです。医療は人の手で行われるサービスであり、最新の医療機器や電子カルテを導入したとしても、それを活用するのは最終的に人材です。しかし、少子高齢化や労働人口の減少、働き方改革の流れの中で、クリニックが安定的に人材を確保・活用することは年々難しくなっています。本稿では、クリニックが持つ「内部リソース」と「外部リソース」を整理し、それぞれの役割や課題を総論的に考察します。次回以降の連載では、内部・外部リソースの詳細な活用法、そして両者を組み合わせた戦略について掘り下げていきます。
内部リソースとは
内部リソースとは、クリニックが直接雇用している人材を指します。代表的な職種は以下の通りです。
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医師(院長・勤務医):診療の中心を担う存在であり、患者からの信頼の核となる。診療方針や専門性によってクリニックの特色が形成される。
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看護師:診療補助、採血や処置、患者対応など多岐にわたる業務を担い、患者満足度に直結する。
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医療事務:受付や会計、レセプト請求など、医療機関運営の基盤を支える。患者との最初の接点としての役割も大きい。
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リハビリスタッフや放射線技師(診療科による):専門的な技術を持ち、医師の診断や治療を支援する。
内部リソースの強みは、院内文化を共有しながら安定的に業務を遂行できることです。一方で、採用難や定着率の低さ、教育・育成の負担などが課題となります。
外部リソースとは
外部リソースとは、クリニックが直接雇用していないが業務に関与する人材・サービスを指します。近年では以下のような多様な外部リソースが活用されています。
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派遣スタッフやパートタイム人材:繁忙期や急な欠員時に柔軟に補充できる。
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業務委託(清掃、検査業務、レセプト代行など):専門業者に任せることで効率化を図れる。
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コンサルタントや顧問:経営戦略、労務管理、法務対応など専門的知見を提供する。
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ICT・DXサービス:予約システムやAIによる問診など、人材不足を補完する外部の「仕組み」も人的リソースに準じた役割を果たす。
外部リソースの強みは、必要なときに必要な分だけ専門性を活用できる柔軟性です。ただし、内部リソースとの連携不足やコスト負担が課題になります。
クリニックにおける人的リソース活用の課題
内部・外部を問わず、人的リソースの活用にはいくつかの共通課題があります。
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採用難と人材流動化
特に都市部では競合クリニックが多く、地方ではそもそも人材が不足しています。採用できても定着せず、短期間で転職するケースも増えています。 -
教育・育成の不足
院長やベテランスタッフが多忙で新人教育に十分な時間を割けないことが多く、結果として業務が属人化する問題が生じます。 -
内部と外部の連携不足
派遣や委託スタッフが院内の方針を十分に理解できず、業務の一貫性が損なわれるケースがあります。患者から見れば「誰に当たっても同じサービス」を求めるため、連携の不備は信頼低下につながります。 -
コスト管理の難しさ
人件費はクリニック経営における最大の固定費のひとつです。採用や委託のバランスを誤ると収支が悪化し、経営を圧迫するリスクがあります。 -
働き方改革・労務管理
残業削減や有給取得推進など、制度上の対応も不可欠です。小規模クリニックほど労務管理の負担は大きくなります。
内部・外部リソースをどう位置づけるか
人的リソースの課題は「内部で全てを抱え込むか」「外部に積極的に依頼するか」という二者択一では解決できません。むしろ、
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内部リソースはクリニックの価値を直接生み出す核として強化する
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外部リソースは効率化・専門化のために柔軟に組み合わせる
という二層構造で考えることが重要です。
例えば、医療事務のレセプト業務を外部委託し、院内の事務スタッフには患者対応やコミュニケーションに専念してもらう、といった戦略が考えられます。これにより、スタッフのストレス軽減と患者満足度向上を同時に達成することができます。
今後の展開
本シリーズでは、次回以降以下のテーマを取り上げます。
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第2部:内部リソースの活用と課題
医師・看護師・事務スタッフといった職種ごとの役割やモチベーション管理について詳述します。 -
第3部:外部リソースの活用と課題
派遣、業務委託、コンサルタントなどの使い方と注意点を掘り下げます。 -
第4部:内部と外部のハイブリッド型活用
両者をどう組み合わせることで、持続可能なクリニック経営が可能になるのかを考察します。 -
第5部:人的リソース戦略の未来
AIやDXの活用、地域医療連携を含めた次世代の人材戦略を展望します。
まとめ
クリニックの経営において、人的リソースは「最大の強み」であると同時に「最大の課題」でもあります。内部と外部、それぞれの特徴と役割を理解し、適切に組み合わせて活用することが、安定した経営と患者満足度向上の鍵となります。本シリーズを通じて、読者の皆様が自院の人材戦略を見直し、より持続的な運営のヒントを得られることを願っています。